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夫名香の数々に

匂ひ上無き蘭麝待  いかに劣らん法隆寺

逍遥 三吉野 紅塵や  宿の古木の春の花


流れ絶えせぬ中川と  特に妙なる法華経

花橘の香ぞ深み  御川に掛かる八橋

法の囃子の園城寺  しかはた恨み添う

冨士の煙の絶やらじ  繁る菖蒲に葺く軒ば

般若 鷓胡斑 青梅よ  世に優れたる楊貴妃

長閑き風に飛梅は  花の後なる種が嶋

又も浮き世に身を尽くし  白妙なれやの夜に

竜田紅葉の賀  傾く斜月白梅

夜寒の千鳥浦伝ふ  深き教えの法花こそ

そこぞと匂ふ鑞梅や<  八重垣篭し花の宴

埋もるる花の雪をみめ  名月 蘭子

名さへ花散里とへば  春の丹霞のたち添ひて

手に持ちなれし花形見  身の上薫の香を残す

須磨の浦はに夜を明石  白むも知らぬ十五夜

軒は隣家に立ち並ぶ  降る夕時雨手枕

残る有明程もなく  雲井移ろふ

花の初瀬の曙か  寒梅 二葉 早梅

をく霜夜とぞ紛えけん  結ぶ契りは七夕

夜は老の身の寝覚せし  東雲早く薄紅

日陰も差すや薄雲の  上り馬とや名付けけん

六十の香と此れを云う也