峻悄 瑠璃帛









適当なところに座んな、とカウンターへ促すと、坊ちゃんは店の奥の薄暗い所へ座った。
多分、外から見られることを考慮してだろうと思う。
精一杯、威を張っている小動物みたいだった。
「さて」
何に致しますか?
左近は袖を捲り上げながら常套句を並べた。
多分程よく喫茶店での振舞い方なんかを、調べてきて居る筈だ。
なんとなく誇り高そうな、瞳をしているし。
「……ギターを弾け」
だが、思惑は外れ、目の前の青年は偉そうに顎でギターを指した。
「…ここが何屋かご存知で?」
「喫茶店だろう?…紅茶を淹れてくれ。美味いのをな」
「…」
左近は絶句した。
なんだろう、物凄く格好良く決めようとしているのか。
それともこれがこいつの本性なのか。
本性なのだとしたら、なんとまあ生き難い人種なのだろうか。
「…はやく持て成せ」
居心地が悪いのか、心が落ち着かないのか。
目を逸らせながらぶすくれている顔。
左近はとうとう噴出して笑ってしまった。
「ふははは……」
三成は途端に顔を紅葉させる。
「無礼だぞ、何が面白い、俺に解る様に説明しろっ!!」
「何がって…貴方の総てですよ」
こんどはきょとんと動きを止めて、それからまた真っ赤になる。
「早く紅茶を出せ!」
左近は笑いながらはいはいと返事をした。
紅茶を淹れる為に、とろ火にしていた薬缶の火を強め、その傍に専用の器を置く。
器を熱で少しでも暖めておいた方が美味いのだが、他の店でもこれを知っているのは少ない。
左近はふと手元に視線を感じて、そっと顔をあげる。
亜麻色の髪を分けることも忘れて、青年はじっと俺の仕様を見詰めていた。
「…珍しいの…でしょうね、普段ご自分では淹れないのでしょう?」
三成は突っ慳貪に振舞う事を忘れて、あぁ…と返事をした。
そして、そうやって淹れるのか…と目を輝かせていた。
何だ意外と可愛らしい所もあるんじゃないか。
左近は小さく笑いながら、紅茶の葉を適量、匙で掬った。