峻悄 瑠璃帛









三成と兼続は頭を突き合わせながらこそこそと話し合いを続けていた。
故に、何時の間にか静まり返った教室に、気付いたときにはもう遅い。
しまった…!
まだ熱心に囁く兼続におい!と肩を叩いて上を見上げさせる。
「…主席、次席。帝国を担う貴様らが自習の一つもまともに出来んとは何たる醜態かっ!」
二人は直ぐに椅子から起立し、畏まった。
「…分ったならもう良い、座らんか。貴様らは独活の様に背だけ高いから視界を損ねる。」
三成は内心ほっとしていた。
見つかったのが偶々島津の伯爵家の義弘だったからだ。
創設者の一員であるし何より華族なので、蟠りが残らない。
そして島津先生も本気では怒っていない。
一応建前上で怒っている。その証拠に。
他の皆がとばっちりを受けぬようにと顔を伏せている事を良い事に、俺達に黙って片目を瞑って教室を後にしたからだ。
放課後。
三成は養母が行けというのでバイオリンを習う教室に行っていた。
いわば嗜みの一つだ。
余り洋楽の拍子を知りすぎると、舞が舞えなくなるのもあるので本当に箔を付ける様な心持でだ。
だが、流石に今日の練習はなんというか少しだけ誇りが傷ついた。
一緒に習っている兼続の才能にだ。
お前初見でそれか。
思わず構えていたバイオリンを降ろした程、兼続は上手かったのだ。
光秀先生なんか、才能とは素晴らしいと口を押さえて目を煌かせている。
此処でこんな事を言うのはあれだが、気持ち悪くなるぐらいに指が動きまくっている。
導入部と触りしか知らないのかそこしか弾かなかったが、兼続はいったい何処でこいつを練習したのか。
「…駄目だ…」
兼続はぽつりと呟き悔しそうに目を細めたが、一体何処が駄目なのか説明して欲しいぐらいだった。
「…じゃぁ…三成殿、ピアノで伴奏を入れるので初見弾けるだけ弾いてみましょう」
この後に弾くのか…
三成は構え直して、緩やかに弓を引いた。
もう習って何年にもなる。
流石に楽譜ぐらいは読める。
初見でも総て弾きこなす事は出来た。
なのに、なんだか負けた気がして仕方なかった。
兼続が虚ろに窓の外を眺め、何か呟いたのが間違いなく俺のことではないのも。
眼中ではないと言われている様で、思いに拍車をかけた。