峻悄 瑠璃帛










 * * * 

俺には何人かの義理の兄弟が居たが、全員違う学校に通っていた。
まぁだからさして交流と言うものが無かったし、仲も然りだった。
紫黒の学生服は俺の通う学校の制服で法商の学生と一目で分る。
二回生の俺は三時限のブリタニアの語学を終え、急いで四時限目の教材を机の上に出した。
帝国憲法の先生は始業の鐘を気にしない先生なので直ぐに入れ替わって授業を始めるのだ。
だが今日は、何時もの偉そうな顔は教室には現れなかった。
そして五時限目の先生が顔面蒼白で自習しろとだけ言いに来て、また隣の学級に戻っていった。
「………何かあったのか?」
三成は同級生で後ろの席の兼続に話題を振った。
「…さぁ、だが…何か大事なら晩には分るだろう……」
鉛筆を持ちながら笑った兼続の目の下に隈が出来ていた。
この男は無理をするから、いけない。
「…昨日はどれ程励んだのだ、雪も蛍も真っ青な見事な隈だぞ」
それゆえ万年主席なのだが、兼続は主席で居ようとするために勉強はしていない。
所謂、学ぶ事が好きな部類なのだ。
兼続は、困ったように目を触り指圧して、隈か…と小さく笑った。
「生憎只ならぬ胸騒ぎに寝られなかっただけなんだ…」
学級も大声では話はしないものの、こそこそと内緒話が囁きあわれていて、三成も憚らず続きを聞いた。
「俺には言えんことか…?」
兼続はいいや、と俺の顔を見てきたが、それ以降言葉が続かなかった。
言葉にも出来ないのか、あるいはしたくないのか。
三成は慌てて話題を変えた。
「…そうだ、兼続、喫茶店の中を見たことがあるか!?」
「……あるわけ無いだろう、第一出入り禁…三成そなた…」
行き成り兼続は胸のポケットから生徒手帳を出して、これが読めないのか!!?と小声で怒鳴った。
「早とちるな兼続、入ったとは言ってない!」
なら、なら良いが…と兼続は一旦呼吸を整えて、それからしかし何故…と眉を下げた。
俺が陰口を叩かれていることは幼馴染である兼続が一番知っていたので敢えて言わない。
言うと、また兼続の熱い正義感が俺を守ろうと躍起になるのは目交いにも容易に浮かぶ。
「…勇ましい冒険心だ。男は度胸であろう」
「…私はお前と共に学び舎を卒業したいと心から願っている事を忘れないでくれたらそれでいい。」
「分っている。」
三成はそう返事して、それから出てきた男の容貌や、店の内装を覚えている限り話した。
「…俺達の家よりかなり質素で、どうして出入り禁止なのかが分らん。」
「分らないといえば、舞踏会もそうだろう?成人のお披露目式なのだそうだぞあれは…」
「まぁ俺達は烏帽子名を貰いもう元服はしているからな…だが、国際社会ではそれは通じぬと…」
「そうだな、別段私達にとって悪影響があるようには思えないところだな喫茶店と言うのは…」