郷里を思い浮かべさせるような、古めかしいようで、だが俺たちにとっては何よりも新しい音。
しかし、俺が引いたドアに付いていた呼び鈴が、揺り戻しで音を立てた瞬間にその音色は途切れてしまった。
そして薄暗い店の奥のほうから、低く甘嗄れた男の声が聞こえた。
「……店は宵からですが…?」
「ぇ…あ…」
今直ぐこの居た堪れなさから開放されたいのに、どうしたのだろう、取っ手を握った手が開かない。
足が竦んだように、動かない。
三成は文字通り、立ち尽くしてしまっていた。
訝しげに、中の男が店先に顔を出す。
艶のある髪を束ねていて、顔には何と戦ったのか痛々しい傷。
服装は所謂、ハイカラー。
絵に描いたような、美男子でしかもどうして洒落ていて。
そんな男が、訝しげな顔をして言った。
「…餓鬼はお断りです」
などと。
「…か、仮にも客に対してなんだその言い草はっ」
三成は文字通り食って掛かった。
初見行き成り、客を断るなどとはご挨拶もいいところだろう。
己が不躾に開店時間前に店を訪れたのなんて最早棚の上だ。
「…公安にでも見つかったら、お目玉を食らうのはこっちなんだよ」
さぁ、帰った帰った。
その男の手が、俺の取っ手を握っている手に触れた。
一瞬何をしているんだこの男は。と思う程に三成はさっきの一言で頭が一杯になっていた。
そして、男は俺の手を取ってから離させたあと。
「…石田のお坊ちゃん、火遊びは大人になってからな?」
と含み笑ってドアを閉めたではないか。
「なっ…!な…なっ…!!」
何故この男は俺の事を知っている!?
さっきのあしらわれ方は一体どういうことだ!?
何だこの屈辱的な敗北感は!
三成はすぐさま閉められたドアを引くが、案の定開くはずも無く。
先程己の予測していた通りの、施錠されている音が寂しく響いただけだった。
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