峻悄 瑠璃帛









如何様の玉であろうとも
照らすたれぞが要りませう
さすればみつけてくれまいか
瑠璃はたれが光らせませう

 * * *

厚歯の下駄も、貴族が履けば品よく見えるもので。
増してや漆塗りで、身形一式舞踊帰りの和装と来れば、日頃から鄙びた姿を見慣れている庶民からすれば一目瞭然だろう。
琥珀の瞳を伏せがちに、カランコロンと家路を急ぐ青年。
傾いだ日輪に手を翳して目を細める仕草ときたら、そこいらの女子が裸足で逃げるほどに扇情この上ない。
三成ははっと気付いたように、その陽を避けようと上げた手を下ろした。
後ろから白拍子と囃し立てる声が聞こえたからだ。
「…面と向って言え、胸糞悪い…」
三成はその派手な容姿と、突っ慳貪な言い草に陰口を叩かれる事が多い。
しかも、名取とまでなっている事実からしてもその存在を疎ましいと思うものは少なくない。
なので付いた徒名が、白拍子。
女が男装をして踊っていると、そういう訳なのだ。
三成は歩みを止めた。
もう目と鼻の先には、己の屋敷が見えるのだが、見えるのだからこそ止まったのかも知れない。
三成は踵を返して、雑言を言う奴を見た。
が、そこには誰も居なかった。
「…鬱陶しいのだよ…」
返した踵をそのままに、三成は町に向って歩き始める。
手に持った、学生服と鞄を入れてある風呂敷を袈裟に掛け、赤い髪を靡かせて。
どうして今なのかは、説明の仕様が無かった。
ただ積もった鬱憤が、とうとうぶちまけたのが、さっきの幻聴だった、というのが正しい。
養父には、お稽古に熱が篭って気が付けば日が暮れていたとでも言えば許してもらえるだろう。
年頃の娘でもあるまいし。
幸い制服でも無いので尋問を受けなければいいだけの話。
西日を背に三成は歩き、町の入り口まで差し掛かったとき、ある一軒の喫茶店が目に留まる。
いやに西洋気触れしたきらいのある店だった。
勉学に勤しむもの、喫茶店に入るなど、以ての外。
生徒手帳にも出入り禁止と記されている、禁止区域がそこにあった。
何時もなら規律を乱すことを是としない親友に止められるのだが、今日は幸か不幸か一人。
「…武勇伝も悪くない」
三成は店に近づいた。
しかし、出端を挫かれる。支度中とドアに札が掛けてあるではないか。
「…拍子が悪い…」
苛立ちに任せて三成は、取っ手に手を掛けて思い切り引っ張った。
当然金属音で、ドアが閉まっていると知らせる音が、俺の期待を踏み躙る。
筈だったのに。
空いてしまったのだ、施錠されていると思っていたドアが。
一瞬、時が遅くなるような錯覚と共に、奥のカウンターの方よりクラッシックギターの音が響いてきた。