峻悄 瑠璃帛









三成はすぐさま、倒れて血みどろの男に近寄った。
「おい、大丈夫か!大丈夫か!?」
「…石田の坊ちゃんじゃ…無いですか……、俺を殺しに来ましたか…?」
痛みを堪えるために傷口を押さえることもせず、その男は俺の腕に手を伸ばしてきた。
刀を持った腕を弱々しく握り、己の傷口に近づける。
「…お前…、どうして避けられたのに、逃げなかった!」
「止めを…さしてくれ…痛いんだ………」
何時の間にか形見の刀が、そいつの血を吸っていたので慌てて除ける。
「今、今、人を呼んでやる、動くな死ぬぞ!!」
三成は鞄や帽子、マントをその場に脱ぎ捨て、店を飛び出した。
己の屋敷に走りながら思う。
義父や義母、いや身内周りは不味い。夫人が何処に向ったかは知らないが、避けたほうが良い事だけは分る。
三成は足を止めて、方向を変え、日舞の師匠の所へ駆ける。
出自が定かでない俺の知り合いなんて、芸で今まで生きてきた、御師匠しか浮かばなかった。
「御師匠!!!」
肩で息をしながら、外玄関に大きく『神有家』と屋号の掲げられた純日本邸宅に駆け込む。
「まぁ、えらいはしたないやない…どうしやったんどす?」
師匠は外出されていたのか、石畳の庭を邸宅に向って歩いていた。
横には、護衛の石川殿が荷物を持っている。
「御師匠、後生です、人が死に掛けています、如何か他言せず、俺に力を貸してください!」
師匠は少し眉を顰め俺に近づき目線を合わせた。
「…あんさんが、やったんやあらへんね?」
俺は何度も頷いて、師匠を見詰める。
「…その、まなこを、信じてええんやな?……五右衛門はん、行ったっておくれやす!」
石川殿は直ぐに、師匠の抱え込みの医者を連れて来た。
「場所は?俺様も応急処置は出来る。先生には別に行動して貰う。」
「三成はん、五右衛門はん、歩きながら出来る話やったら歩きながらしなはれ!…時間あらへんのやろ?」
三成は急いで、左近が居る店を言い、走り出した。
こんなに走ったのは初めてだった。人の為にと言うのも初めてだった。
外は暗くなり、街灯の光が皓々と灯っている。
もはや喋る事も出来なくらい全力で駆け店について、急いで裏口を開ける。
「…っ、生きているか!!!」
その男は、這いずってカウンターに入ったのか、洋酒を持っていた。
血は、白いシャツを真っ赤に彩り、床にまで流れている。
三成は胸倉を掴んで叫ぶ。
「動くなと言っておいただろうが!!!」
「…俺の体…頑丈みたい…から、迎え…酒……、坊ちゃんが、楽に…させてくれな……から」
手に持った瓶が、割れて中身が飛び散ったのはその直後の事だった。