峻悄 瑠璃帛










 * * * 

別に誰に詰られようが、構わない。だが心配されるのは別である。
翌日三成は悶々としながら学校に着いた。
養母がくまなく探させたと言ったのだから、当然兼続のところにも連絡が行った筈で。
もし詰問されたら、兼続にだけは本当のことを言ってしまいそうで。
しかし壁に耳ありとはよく言うもの。
どこから悪事が学校に知れるかしれない。
「…休まないか…」
そうしたなら、下手に噂なんぞも立たない。
「……己の醜さに吐き気がする…」
己の保身の為とはいえ、何て事を考えているんだ俺は。
下駄箱で靴を替えながら三成は悔やんだ。
そして案の定、そんなことを考えてしまったからか。
兼続は学校を休んだ。
丈夫なだけが取り柄だ!なんて毎年の皆勤賞男が、初めて休んだのである。
声の大きくて、何をするにもいちいち目立つ男が。
たった一日居ないだけで教室は火が消えたように静かに思える。
「……」
何か聞きたそうに視線を投げかけてくる同輩に、三成は息苦しさを覚えた。
早く学校が終わらないものか。
願うのはそんなことばかりだった。
そして放課後になり、三成は上杉邸宅を訪ねようと急いでいた。
宿題のことなんかもあるし、何せあんな元気溌剌な奴がどうして休むなどと思うと、気になって仕方なかった。
だが、そんな足が近道をしようとして裏路地を直走っていたのに止まってしまった。
そうそれは丁度、あの喫茶店の裏。
見てはいけないものが、目の前に広がっていたから。
あの泣き黒子目立つ白い肌の美しい女性は、確か築山…
その赤く彩られた口を吸っているのが、あの男。
「ぅぁ…」
たじろいだ拍子に声が出てしまい、途端に築山殿がこちらを伺い扇子で顔を隠した。
そしてあの男が、舌打ちをしながら俺に近づいてくる。
「火遊びは大概にしろと言ったはずだ!」
二の腕を掴まれ三成は其の侭喫茶店の裏口から店の中に押し込まれた。
外で、今日は帰ってください、石田の坊ちゃんは俺がどうにかすると話している。
頭が酷く混乱している。
だって、松平の第一夫人が、こんなところで、あの男と…
いやそもそも、どうして、そんなことをしているのだ。
裏口が開くと同時に差し込む外の光に三成は逃げなければとの衝動に駆られた。