峻悄 玻璃帛










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蚊帳の外というか、俺自身興味が全く無いというのが実状だった。
昨日報せが届いてから、この家は慌しい。
幾ら資金があっても地位と格には目が眩むのだろう。
早速今晩、鷺鳴館で話し合いがあるそうだ。
俺には関係ないが。
それより俺には重大な事がある。
慶次はグランドピアノの鍵盤に指を置いて、練習曲を弾き始める。
指を慣らすために、いくつかの楽曲を弾いた。
どうせ、権威が保障されるなら、政治に興味のある人間なんて一握り。
直ぐに安泰だと解ると、また嬉し気に鷺鳴館で踊り明かす。
貴族なんてそんなものだ。
だから、首相がどうなろうが、次の首相が決まれば…
何のためにそいつが殺されたのかなんて考えなくなる。
世の中はとはそんなもんだ。
だからきっと、俺の為に催すといった晩餐会は必ず開かれるだろう。
こんなに大それた晩餐会をお前のためだけに開くのだから、覚悟を決めろと言いたいのは解っている。
もう分別のわからない子供ではないのだから、と…
流石に解るさ、俺にだって。
慶次はカンパネラの楽譜を出して、改めて読み直す。
あの日、叔父貴が当主と話されて俺が此処をお暇するのが決まった。
やっと慶次も大人の考えが出来るようになったのかと、あのときの嬉しそうな顔をした叔父貴が憎たらしい。
俺の心を総てわかっていて、そっと生き方を応援してくれた当主と離れるのは淋しい。
だが、そんな当主が用意してくれる俺の舞台。台無しにするわけには行かない。
前田の為ではない、上杉の為に俺は晩餐会をするのだと慶次は思いながら楽譜を読む。
慶次は再び白鍵に指を乗せ、調べを奏で始める。
ふと視線に気付き、慶次は手を止めた。
「…声を掛けてくれなきゃ、気付かないよ?」
扉の横で、立っていた兼続に話しかける。
「…でも、慶兄は気付いてくれましたね」
目鼻立ち淑やかな、綺麗な顔が微笑んだ。
「………差し出がましいのですが、景勝様が明日もお早いので、今日はこの辺で…」
兼続はそういい、立ち上がってピアノの陰から出てきた慶次を見上げた。