峻悄 玻璃帛










 * * *

二年経って、弟のように思えたのか。
弟にしては覚えの良い、見目の麗しい、そりゃお見事の一言に尽きるような男だ。
それは違うだろう。
じゃぁ、一体何なのだろう。
からかうと子供に戻って可愛らしい、だがもうこの世界を知り始めている。
その間際に居るから、だろうか。
こんなの全然答えになっちゃいない。
「俺は考え無しだからいけないねぇ…」
どうしてあの時、あの場所で、あやしてしまったのか。
分かれるのを嫌がる女を、宥めてしまったような罪悪感が、あの日から離れない。
それは当然、指先から音に乗ってしまう。
あぁ…なんてことだろう。
あれから兼続とは、あってはいない。
当主が己に専念しろと言ってくれたからだ。
晩餐会も日を追う事に真実味を増してくるし。
ふと窓から将来の当主とその側近が見えたので、覗いてみた。
背筋正しく玄関を抜ける様は、今が一番輝いているといわんばかりである。
短髪の後を付いて行くように長髪が続く。
その瞳がこちらを窺いそうな気がして、慶次は部屋の奥へと逃げる。
純粋な眩しさに、目が潰れてしまいそうだった。
慶次はこれでは不味いと思い、散歩をしてくると屋敷を出た。
居心地の良かったあの屋敷が急に色を変え始めた。
闇雲に歩いて屋敷から距離を取る、引っ掛けた着物だっておおよそ貴族の形ではない。
ただ逃れたかった、早く逃げたかった。
「どうして…あんなこと…」
丁度その時、通りの小洒落た店の戸が開いて、物憂げな顔の男がこちらを見た。
黒髪を遊ばせたまま、手には箒に塵取り、口には葉巻。
俺はなんだか夢中でそいつに詰め寄った。
「…今からでも、大丈夫か!?」
その男は、口から葉巻を外して。
「……掃除も未だですが、それで良いんなら?…」
構わないと言い終わるなり慶次は店の中に入った。
カウンターとテーブルがいくつか有る小さな、けれど今の心地でなら悪くは無い。
外からの明かりは余り入らない、一言で言えば陰湿な店だった。
「…酒はなにがある?」
「……洋酒ならスコッチ…日本」
「其れを、オンザロックで…」
「畏まりました…」
店の奥に座ろうと足を進めた。
暗くてよく分からなかったのだが、自分が座ろうと思っていた机の上に。
ギターが置いてあり、楽譜も何枚か広がっている。
「…あんた、弾けるのかい…」
片手にロックグラスを持ったその男は眉を顰めて、今はさっぱりと苦く笑った。