「…そういう事なら任せてくださいよ。」
そう言われて一番困ったのは、やはり女将。
店の体面上、おみつに今抜けられるのは痛手ではある。
だが、筒井様もまた客であるには代わらない。
それに身請けはさっさと事を進めたほうがいい。
女郎なら未だしも、おみつは男郎。
男を身請けするなど、稀も稀。
それこそよっぽどでなければ有り得ないことである。
できれば店側としては、枯れる花となって飼い続けるよりは金になるうちに婿にやりたい。
「…任せたいのは山々なんだけれど…筒井様の気性じゃぁ…」
おみつも続ける。
もっとも、身請けされるとかは棚に上げて。
「俺も、今は…店を辞めるわけにはいかん…」
そんな事をしたら、あの体で牡丹は客を取らねばならなくなる。
「頼む、島様。どうか体裁良く引き伸ばすなり何なり…頼む。頼む…」
おみつは島を見詰め、もう一度頼む。といった。
女将もまた、出来れば上手い事身請けを引き伸ばして貰いたいとの眼差しで島を見ていた。
「…これでも、頭は切れるほうですよ。ご心配無くってね」
軽く笑った島様の笑顔は、何故か信じても大丈夫だと思えるものだった。
「では、早速ですが」
島は早速おみつに手紙の返信を書かせた。
内容は良いお話だとは思いますが云々。と茶を濁したもの。
勿論、そう書けと命じたのは島だった。
「まずはこれを社長に見せます。」
ただ縦長に折られた手紙を、島様はわざと結び文にした。
「で多分、社長はこの内容を好ましく思わないから…」
そして不意に俺の化粧途中の唇に触った。
思わずびくっと後退りして睨んだが、島様は最早俺を見ては居ない。
島様は自分の親指についた俺の口紅を、手紙の結び目にすっと塗りつけた。
「当然催促の手紙を直ぐにでも書き始めるでしょう。俺の目の前で。」
その時に店の今の状況を説明します。
だから、こんな手紙を寄越したんですよ…いじらしいですね。
そう言えば、貴方の株は上がり社長も満更じゃ無くなる。
島様は俺なら出来ますよ、との自信をもって喋った。
「…そんなに、上手く…」
女将は不安そうに言い返した。
「何年社長に仕えてると思ってるんですか。任せてください。」
島様は文をちらつかせて部屋を出て行った。
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