玩弄 薔薇帛










 * * *

そういった経緯もあり。
おみつは体が弱いのを押して、一ヶ月は二人分の仕事をすることになった。
女将に頼まれないまでも、俺は親友の為なら何だってする気にはなっていた。
いや、今まであいつは俺の為に俺の客の相手までしてくれていた。
少しでも恩が返せたなら、兼続に少しでも楽になってもらえたら。
おみつが決心を固めて、化粧を始めた直後。
「おみつ、客…になるかは分からないが…」
と昨日見えた島様を伴って、女将がやってきた。
「…未だ、化けていませんから…もう少し」
そう言っているのに、女将は遠慮なく襖を引いた。
「済みませんねぇ。忙しいのに。」
そういいながら、島様だけが部屋に入ってきた。
島様は、何処か洋風の店にでも行っていたのか、異国の香水の匂いを纏っていた。
それが近くまで寄ったかと思うと、昨日の様に結び文を手渡してきた。
「社長が是非とも読んで頂きたいそうですよ。俺の前で。」
おみつは黙って、その結び文を開いた。
女将は苦虫を噛んだ顔をして、一歩引いたところから俺たちを見ていた。
なかなかに達筆な文字を読むにつれて、おみつは動けなくなってしまう。
「…、…身請けしたい…だと…?」
自分で発した言葉な筈なのに、信じられなかった。
しかし手紙には確かにそう書いてある。
女将が急いで部屋に入ってきて、手紙を横から読んだ。
「…参ったね…、これからって時に…」
白髪交じりの結い上げた髪がゆっくりと、俺の横で力なく俯いた。
その状況を飲み込めていないのは、言付け係りを賜ってる島様。
「…?…都合でも悪いんですか?」
女将は、掻い摘んで事の深刻さを説明した。