玩弄 薔薇帛










 * * * 

筆まめな衆道ほど鬱陶しいものはない。
おみつは簪に結ばれた文を抓まんで顔をしかめた。
書き連ねてあるのは。
いかに自分が俺のことを思っているかとか。
今晩の会合は自分が居なければ会にならないとか。
くれぐれも愛想を尽かさないでくれとか。
「返事を求められんだけ、ましか…」
一日休んだおみつは熱も下がり、文に悪態をつけるまでに回復していた。
当然、今晩もまた定まらない誰かと床を共にしなければならないが。
「そんな事より…」
心苦しいのは、牡丹の方。
臥せていた時に聞こえた声に、俺は背筋が凍った。
しかし、憎いことに隣の部屋を窺うことすらあの時は体が動かず出来なかった。
読み終わった文を捨て置き、ゆっくりと壁に寄る。
物に凭れつつなら歩けるおみつは、おかねの様子が気になり自室の襖を引いた。
いつもなら廊下を挟んだ目の前におかねの部屋の襖があるのに。
そこには女将が、切羽詰った顔で待機していた。
思いも寄らぬ光景に只事ではないと悟る。
「…どうしたのですか?」
女将は俺の呼びかけに驚いて目をひん剥いて仰け反った。
「薔薇には、関係ないこと。部屋にお戻り。」
明らかなる動揺。
制止する女将を退け、おみつは牡丹の部屋の障子を引いた。
「兼続!」
開けると同時に番頭が立ちはだかり、部屋が見渡せない。
気配で、その奥には兼続が居るのは分かるのに。
「部屋に戻って下さい、安静にしてれば大事ないですからっ」
「大事無いだと…!?」
嫌な予感がした。
邪魔な番頭を押し退けて、おみつは兼続を見た。
「…っ」
白衣の医師が、洗面器に大量に積まれた血の染み込んだガーゼを始末していた。
もう一人の医師は肩口から背中にかけて、兼続に包帯を巻いていた。
「…これは…」
一体どういうことなんだ。
「…三成…」
焦点の定まらない眼で何処かを見つめていた兼続が、俺を見た瞬間。
言葉の続きの代わりに、泪が頬を流れた。
「な、何故…お前がこんな目に…遭わねば…!」
しゃがんだおみつは兼続に寄り、泪の通った筋を着物の袖で拭く。
「…私の態度が、気に入らなんだようだ…」
だからって、こんなのって。
「こんなのあるかっ!」
後ろで番頭と女将が必死で俺を引き離そうとする。
おみつ、おみつと窘める。
「兼続が、一体何したってんだよっ!」
番頭に殴りそうな勢いのおみつの背後で、おかねは静かに項垂れた。