玩弄 薔薇帛










 * * * 

率直に言えば。
社長の性癖には閉口していた。
色を好むのは男の性と言っても過言ではない。
俺も然りだから、この世の常だとも思う。
しかしながら、初めてそっちの人だと聞いた時。
社長をどう扱っていいものかと。
二の句が次げず、愛想笑いで誤魔化したのは今でもよく覚えている。
だって、選りによって男色ですか?
「…島、ご苦労。」
朝店の前に迎えに来た俺は、社長の顔を窺いながら儀礼の挨拶をした。
「…久しぶりは如何でしたか?」
朝から下世話だが、社長を調子付かせるのも俺の仕事。
「…相変わらず、薔薇の様に華美だった…」
なんて、満足そうに微笑まれても。
共感なんてのはほとほと出来そうに無かったが。
「次が楽しみですな」
同調して穏便に運ぶのに限る。
左近は、車の後部座席を開けて筒井を座らせると、自分も運転席に乗り車を発進させた。
それが今日の朝。
そして今が、今日の夜。
「執心な事で…」
左近の手には、豪勢な贈り物と結び文。所謂恋文。
晩は遠方で会合があるから行けないと、社長が泣く泣く愛猫に書いた手紙と贈り物。
左近は早速、言伝を伝える伝書鳩の役目をさせられていた。
雅というよりかは厳かさが強い店の前で車を停める。
左近は手紙等を片手に車を降りた。
娼婦楼閣、女郎花。
知る人ぞ知る陰間専用の楼閣を裏に持っていて、遊郭屈指の一つに数えられている。
最近は西洋の思想とかなんとかで、男色は人気を無くしていると風の噂で聞いたことがあったが。
此処の裏にあたる男郎花だけは別だった。
敷居を跨ぎ、早速左近は番頭を呼び出した。
そして、筒井の使いです薔薇にこちらを。と、文と品物を差し出した。
しかしながら返ってくる返事は歯切れが悪い。
「…私がですか…えっと…女将に聞いてきますね。」
とかなんとか言い捨ててそそくさと奥に消えてしまう。
別に今から俺が買うとか言ってるわけじゃ無いし。
返信を催促してる分けでもないのに。
そんな愚痴が口から出そうになったときに目の前に女将が現れた。