玩弄 薔薇帛









今日は見せびらかせる客が居るからか、妙に押し付けがましい。
おみつは小さく溜息を落とした。
「こやつは根っからの女好きでな、まぁだから連れてきたのだが」
島様は薄く笑って、頭を下げる。
「出歯亀は無粋にも程が御座りますれば、これにて」
畏まった挨拶をして島様はまた顔をあげた。
おみつは咄嗟に目を合わせた。
その見ないようにしていた瞳の真相が、俺に対する哀れみなのならば。
どうか、あと少しだけで良いから。こいつと話をしてくれ。
嫌だ。
地獄に堕ちたくない。
懇願する眼差しにを目の当たりにしたからかは分からないが。
島様は少しだけ視線を逸らした。
「うむ、では明日の7時に店に来い」
「…はい…では…、…」
襖が完全に閉められる前に、筒井はおみつの横髪を除けて耳を甘噛んだ。
するすると解かれる腰紐の音が部屋を満たした。

 * * *

朝になり筒井を送り出してから、おみつは寝込んだ。
元来おみつは体が弱かった。
攫われて陰間の仕事を体で覚えさせられた時もそうだった。
他人に嬲られた次の日は、必ず熱を出して動けなくなる。
「…おみつが、頑丈ならねぇ…」
名実ともに一番になれるのに。と悔しそうな女将が捨て台詞を残し部屋を去っていった。
「…反吐が、出る…」
枕元の飲み水を引っ繰り返してやれば、この惨めさも晴れるだろうか。
だるい体を反転させて、急須に手をかけた。
「…邪魔するぞ?」
言うと同時に襖が開いて、兼続が入ってきた。
そして、三成の手を見て水が欲しいのか?と聞いた。
その優しい顔を見ただけで俺の中で何かが許された気がした。
「…何時になれば、俺たちは年季が明けるんだっ…」
急須の取っ手を握っている手が小刻みに震える。
兼続は三成の寝ている布団に腰を下ろして、その手に手を重ねた。
「…必ず、明ける。そうで無ければ…」
兼続は三成の手を何度も擦って、もう片方の手で泣いている三成の泪を拭った。
「今まで我慢してきた、甲斐が無いだろう…?」
三成は体を無理矢理起こして、兼続にしがみついた。
「兼続、三成と呼んでくれ。俺は三成だ。おみつ等では無い」
兼続は何度も三成と呼んで、その縋りつく体を抱き締めた。
「生きて、ここから出て…」
いつの間にか慰めていた兼続も泣いていた。
「故郷に帰ろう…、そう私をこの世に繋ぎ止めたのは…三成だろう…?」
二人は互いの傷を互いに舐めあう様に、日の高い就寝時間に抱き締めあった。