玩弄 薔薇帛










 * * * 

店の看板として売られるようになってから、個人の部屋が与えられた。
部屋を持てると言うことは、金持ちの旦那様がついたということ。
その旦那様を持ち上げる為、また攫われてきた後輩たちにせめてもの希望になるように。
そんな思惑があってのことだろう。
勿論、部屋を持つにあたりそれなりの代償のようなものもあった。
自室があれば売り出ししている時のように、いくつもの部屋を駆けずり回らなくて済む。
普通なら、売女は自室が与えられて然るべきなのだが、金になりにくい男共らは、女以上に自由など無かった。
この娼夫楼閣は、夜は逃げられないよう、稚児らは座敷牢に足枷を付けられて皆で一緒に寝るのだった。
そんな楼閣の中で、個々の自由と引き換えに奪われたのが、片足の腱。
また、ある程度稼げるようになったから、その金で逃げられることも考えているのだと思う。
何にしても、この身は二度と、両足で満足に歩く事は出来ない。
もう二度と…
かたっと音がして障子が引かれた。
「筒井様の御指名です」
少し遠い廊下で男の無遠慮な足音が聞こえてきた。
「はい」
おみつは、入口に向き直り手をついてお辞儀する。
さらりと流れた亜麻色の髪が、項を覗かせた。
また、地獄が始まる…
「…おぉ、しょーび、薔薇よ。顔を見せなさい」
部屋に入って来た途端顎に手をかけられる。
伏せ目ながらに伺う筒井様の顔はいつもより上機嫌。
「…何か良い事で…も…?」
「あぁ、先日企画が軌道に乗ってな!一儲けは確実よ」
おみつは、薄く笑った。
「…それは、至極ですね…」
「それもこれも、島のお陰よ」
おみつは初めて聞いた名前に首をかしげる。
そんなことを言いながら筒井は手を二、三度叩いて島!と呼んだ。
「…失礼致します」
髪の長い、精悍な男だった。
「成程、まさに別嬪ですね」
島は筒井に向かい感嘆の声をあげた。
しかし、おみつにはそれが建前であることが雰囲気で分かった。
俺を一瞥した時に光った眼の色は、間違いなく俺を見ないようにしていた。
筒井は更に機嫌を良くしながらも、島に釘を打った。
「間違っても、手をだすなよ。」
すると島は目の前で手を振り愉快に笑った。
「生憎…専ら女色なものでして」
おぉ、そうであった、そうであった。と筒井は満足そうに笑い返した。
おみつは話の肴にされてはいるが口を出さない。
「…そういうことでだ。おみつ」
筒井の手が顎から耳へと伝い、おみつの柔らかな髪の毛を撫でた。
「所用があれば島に言伝を申し付けるから、心しておきなさい。」
か細い声で返事をしたら、筒井様はもっと近寄れと腰に手を回した。