玩弄 薔薇帛










 * * * 

縋られたから、仕方なくあんなこと言ってくれたのだとしても。
これから俺はどうしたらいいのか。
飯も喉を通らず、晴れぬ霧を掻き分ける心持でずっと考えていた。
ふと何気ない夕日に、筒井社長からの手紙のことが浮かんだ。
適当な言葉の文を書いて、兼続の事を助けてやれたらと送ったのを思い出す。
三成は鼻で笑って俯いた。
この身も、そう遠からずして性欲奴隷として引き取られる。
地色も居ないこの俺には、連れ出して欲しいとせがむ相手すらいない。
「だが…」
此処を出てまで、身を捧げるしか俺に生きる術が無いのなら。
もう何日も使っていない化粧台へと視線を移す三成。
ここで剃刀で首でも切って果てたほうがましかもしれんな。
それぐらいなら、選ぶ権利はある筈だ。
思いを固めた時に、西洋の洒落た香りが鼻を突いた。
…そういえば、この部屋には島様が居たんだったな。
徐に一瞥すると、どこか哀れみが含まれる眸が俺を見ていた。
まるで、俺に力が無いばっかりにと辛そうにしている恋人の様な。
…地色が居たらあるいは、こんな無言でも幸せだったの…だろうか…?
葉巻の匂いが少しだけ夢を見させてくれる気がした。
「…島様、俺は…三成だ。」
時間が巻き戻る。
お前が最初に俺を見た時の、なんとも言えぬ気まずそうな視線になった。
願わくは、哀れんでくれるなら。
嘘でも良いから。
一夜なんて贅沢は言わない。
一瞬で良いから、地色を演じて欲しい。
三成と、その声で呼んで欲しい。
それから数秒で俺の視界から島様が消えた。
そして漸く何処に行ったのか理解できたのは。
抱き締めて、耳元で俺の名前を囁いてくれた時だった。
やはり、お前は良い奴だ。
手紙の件は結果は失敗に終わった物の、あれだって俺を救ってくれるように計らってくれたに違いない。
襖の前で立ち塞がり、俺を兼続の元へ行かないようにしたのも。
今となっては、俺の身を守らなければと思ってやってくれた事…
「島様…」
お前が本当に地色なら良かった。
「…この、まま…………」
そうしたなら、俺の願いも叶えてくれたのかもしれない。
「……どうか………このまま……」
夢の中で殺して。
葉巻の匂いが消えてしまう前に。