玩弄 薔薇帛










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門番の所に女郎花から連絡が入ったときには、すでに役者は花を攫って姿も無かったらしい。
最近は足抜けなんて、直ぐに足が付くから誰もしようとは思わないそうだ。
連れ戻されて再び地獄に沈むのなら、死ぬほうを選ぶのが此処の性格なのだと。
隣の部屋で、何が不満だったのよ!と狂乱している女将の声が聞こえる。
不満も何もないだろう。
左近はそう思ったが言わないで置いた。
隣で薔薇が俯いて、時折鼻を啜っているから。
「…薔薇さ」
「兼続は、無事…逃れたんだろうか…」
慰めにもならないのか、俺の言葉を遮り薔薇は言った。
正座を崩して、足を折り膝頭に顔を埋めて。
「……えぇ、多分……」
人を抱き締めてやりたいと、そう思うのはこんな時なのかもしれない。
あれから一時間も経っていないのに、薔薇は急に痩せた様に見える。
放って置いても勝手に壊れてしまいそう。
左近はただ、抱き締めてやりたいと思った。
だが、手が出ない。
昨日の今日。あんな酷いことをして、俺の一存で貴方がしたいと思ったことを阻んで。
挙句、俺で足りるなら助けてやりたいなんて。
虫が良すぎるだろう。
左近は肩先に触れようとしていた手を戻し、その代わりに己のズボンを握った。

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