玩弄 薔薇帛









「薔薇、牡丹!」
見張りが、外の声に足抜けだとようやく理解して部屋に押し入った。
膝に抱いていたおゆきがその声に驚いて目を覚まし、顔を見上げてあれ?とのとぼけ顔。
「…なんで…牡丹兄さんは…?」
三成は黙っておゆきを抱き締めて、頭を庇った。
一人の見張りは窓から外を見下ろして、東に足抜けだと大声で叫ぶ。
「薔薇、牡丹はっ?」
そしてもう一人の見張りが肩を掴んで、おみつの伏せた顔を無理に覗き込もうと髪の毛を引き掴む。
「牡丹は何処だって言ってるんだ、お前も折檻させられたくなきゃ喋んな」
三成は痛さを堪えて黙りを決め込む。
俺が黙っている間に、時間を稼げれば。
それだけでいい。
伊達の手の届かないところへ。
どうか、逃げてくれ。
「こっちに来いっ!」
痺れを切らした番頭が髪を強く引っ張り、三成の体が畳の上を滑る。
「っ!」
腕の中で兄さんっと震える声、この子も守らねばと思った。
「社長の愛猫に傷を付けてもらっては困ります」
毅然とした声に見張りが一瞬よろめく。
その隙に左近は見張りの腕を叩き落して、おみつをおゆきごと抱き上げた。
それは予想にもしない刹那の出来事。
「なっ何しやがる!」
二階の見張りが召集を掛けられたように集まる。
「先決すべきは、逃げた人達の退路を奪うことではありませんか?」
三成は左近を見上げた。
「早く大門閉めないと、この遊郭存亡すら危ういでしょうね」
何せ、伊達のお気に入りだし?と笑った顔に見張りは蜘蛛の子を散らすようにその場を離れた。