左近が覆いかぶさって首筋に口を落そうとした。
三成は震えながらも咄嗟に頭を振る。
「……あんたも、社長の玩具ですか…」
気が付けば涙を流していた俺から体を剥がして、冷たく笑う島様。
味方とかじゃないんだ。そうじゃないんだ。
遣る瀬無い顔で、悔しそうに叫ぶお前を見て思ったんだ。
三成は左近の訴えを聞きながら、深く自分を責めた。
人には触れてはいけないものがある。
俺はそれに不躾にも触れてしまった。不可侵を侵してしまった。
俺だってそんなことされたら、きっときっと…
「…違うんだ、…俺を手篭めにしても…」
三成は涙で濡れた顔を覆いながら言った。
「お前が更に傷つくだけだ…余計に、荒むだけだ…」
「はぁ?…あんた、何言って…」
島様が狐につままれた顔をして、素っ頓狂な声を上げた。
そんな時だった。
突如、部屋の襖を挟んで聞こえる悲鳴。
「痛いっやめ…っ、ぅわぁああっ」
泣声には聞き覚えがあった。
先日俺達の様に攫われて売られてきた、おゆきと名づけられた少年。
そのおゆきが、兼続の胸で父上母上と言いながら泣いていた声だ。
島様が尋常ではないその泣声に部屋の襖を引くと、手の甲に煙草を押し付けられて蹲っているおゆきの姿。
「兄さんっ牡丹兄さんがっ、伊達様がっ…」
その少年は痛さを堪えぽろぽろと涙を流しながら、懸命に事態を伝えようとする。
三成は跳ね起き牡丹の部屋に向かう。
しかし、島様が開けていた障子を閉めて俺の行く手を阻んだ。
「退けっ!兼続が!!」
頼むからとの懇願も、島様は聞いてくれない。
「伊達は拙い、陰間一人ぐらい消しちまう、あいつは人を人とは思っちゃいない!」
「兼続は今怪我をしているんだっ、後生だからそこを退けっ!!」
三成は左近の胸に縋るように己の身をぶつけて、拳で胸を叩いたが左近は退いてはやらなかった。
「退いてくれよっ、そんなことは分かってるんだよっ!」
懇願するように見上げた三成。
そんな仕草に静かに目を瞑った左近は、三成の鳩尾に拳を一発入れた。
「っ!?……」
意識が飛び、手前に倒れた三成を抱き留め部屋に寝かせる。
「………………」
左近は外で泣き続けている少年を抱え上げて、女将の所へ連れて行った。
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