多分普段の道を通って此処の遊郭まで来たと思う。
ハンドルを握りながら今までの俺の業績を思い出したりしていたら、気が付けば女郎花に着いていた。
店の前に乱暴に車を停めて左近は車を降りる。
葉巻に火をつけてふかしながら、入り口を入った。
「女将を」
言うが早いか出るが早いか。
結果を今や遅しと待ち侘びていたのか、女将は直ぐに姿を現した。
左近は前置き無しに、懐から札束を出して女将に突きつけた。
「薔薇を一ヶ月買い占めたい。勿論前払いだ。」
女将は出された金を落とさぬよう抱きとめて、それから頭を傾げる。
「…筒井様が、そう…?」
「あぁ、どうしても自分以外の男に買われたく無いらしい」
女将は渡された金を其の侭に、相談してくると俺の前から姿を消した。
あまり時間が掛からない内に薔薇の部屋へと言われたので、俺は交渉は成立したのだと思った。
部屋に入るなり薔薇と呼ばれる男が振り向いた。
あぁ、言われれば成程。独占したいと思わせる頼りなさがあるようにも思える。
左近はなげやりに、自分の心にそう思い込ませようとした。
「どうだった…?」
左近は返事をしないまま、部屋に入って襖を閉めた。
薔薇は怪訝そうな顔で駄目だったのか?と重ねて聞いてきた。
「…おめでとうございます。貴方は一ヶ月仕事をしなくて済みそうですよ。」
薔薇の顔が曇った。
「…まさか…俺の所に居続ける気か…?」
「ご名答。」
おみつは答えを聞くと同時に、俺の胸倉を掴んで怒鳴った。
「それじゃ駄目なんだ!それじゃ…!あいつが客を取らねばならぬ!!」
左近は黙ったなり、葉巻を吸っていた。
大丈夫だと啖呵を切った手前。悪かったとおどけるなんて出来なかった。
おみつは社長と話がしたいといった。
だが、それも当分は無理な話。此処の楼閣には電話はないし、社長の行き先も俺は知らない。
何も答えない俺におみつは悔しそうに俯いて、兼続と誰か知らない男の名前を言った。
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