玩弄 牡丹帛










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初めて身売りをさせられた時以上の、悪夢。
嬲るだけ嬲った後、自分がいかに大きな人間であるか。
展望はなんだと自慢話をする男は少なくない。
御曹司も例外では無かった。
ただどこかで、何時も以上に私は。
御曹司を拒絶していたのだと思う。
伊達様の自尊心を傷つけない答えを。
身を守るための無難な答えを、言えなかった。
私の言葉の小さな棘が。
独眼竜の逆鱗に触れてしまった。
一頻り罵声を浴びせられつつ犯され、それでも腹立たしかったのか背中に小刀を立てられた。
やめてくれと、助けてくれとせがんでも。
部屋の見張りは入ってきてはくれなかった。
己の血で染まる褥にうつ伏せて遠ざかる意識の中。
不愉快だと怒鳴る伊達様が襖を突き飛ばして帰る音。
それを必死で食い止め謝罪する番頭。
私の心の全てを踏み躙られた気がした。
痛みに再び意識が戻った時。
未だ生きろというのかと、怒りを通り越して諦めさえ感じた。
二人の医師が酒で消毒をしているのか、息をするだけで頭がくらくらと酒に酔った心地がする。
女将が何かを言ったが、受けた衝撃が大きかったのであまり分からないふりをした。
何があったかなんて、見ればわかるだろう?
そう呟いてしまいそうになり、ゆっくりと噛殺した。
伊達様が自慢気に話していたうちの一つが、ふと思い浮かんだ。
そういえば。
この楼閣もまた、伊達の系列の流れを組んでいると言っていた。
だからか。
だからどれだけ叫んでも、番頭は入って止めてはくれなかったのだな。
医者が一ヶ月は仕事は出来ないと女将に話している。
この機会に、ただ飯食らいは用無しと始末でもしてくれたなら。
そんな考えも、女将の一言で更に深い絶望へと変わる。
「御曹司がまた来るから、其の時までには間に合わせたいの」
医者が渋い顔をした。
「出来るだけ早く頼むわ。どうやら自分好みに躾したいらしくて…」
そうだけ言い残して、女将は部屋の外へ出て襖を閉めた。
多分、如何してでも治せと言う事だろう。
「無茶ですよ…この人、毎回こんなのされてたら死んでしまいますよ…」
若い方の医師が、もう片方にだけ聞こえる声で耳打ちした。
女将に回復予定を説明した医師が、投げやりに相槌を打った。
兼続は最早定められた運命に口答えする気力も無かった。
もう選択肢は無い。
いや、攫われて売られたその日から。
選択する余地なんて、始めから無かった。

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