玩弄 牡丹帛









舐める様に見られた後、伊達様は言い放った。
お目が高い!等と喜んでいる女将の横で、おかねは首を絞められた如くの喉の詰まりを覚える。
次に店に来たら、相手をしなければならない。
こんな年端も行かぬ、生意気な…っ
「次が、楽しみじゃ」
伊達はそういうと、おかねの頬に触れていた扇子を己の口に当てた。
女将が疑問に思い声をかける。
「…もうお帰り遊ばすのですか、まだ香は尽きませぬよ?」
すると斜に構えて、勘弁いたせ。と伊達様は笑った。
「蛇の生殺しとは女将も酷な事を言う」
「まぁ、お上手!」
伊達と女将がひとしきり笑いあった後、伊達はもう一度扇子でおかねの顔を自分に向けた。
「大人しく待って居れよ?」
「…………お待ちしております…」
御曹司は、それからすっとおかねの耳元に口を近づけ囁いた。
「…儂は従順な犬が大好きでのぅ…」
おかねは恥らうように俯いてみせた。
嗚呼、いっそ殺してくれ。

 * * *

次の日には早速来ると、わざわざ帰り際に残していった伊達様を持ち上げるため。
私の今日の勤めは、伊達様に会うのみだった。
「…明日なんて」
部屋に連れ戻されたおかねは、手の甲で己の唇を拭った。
まるで爪でも立てたような二本の線が手の甲を彩る。
そんな紅を汚いと思った瞬間だった。
障子を隔てて聞こえる、くぐもった呻き声。
それと同時に、盛った男の宥める声。
『…猫は、爪を立てるから…愛らしい…、愛らしいぞ…薔薇…』
おかねは耳を押さえて前のめりに布団に雪崩れた。
惨めで惨めで仕方が無かった。
「どれだけ、人を虚仮にすれば…気が済むっ…っ」
唯々、この様な仕打ちをする神様を恨んだ。
何時の間に眠っていたのだろう。
気がついたら朝になっていた。
開けっ放しだった障子から、ひんやりとした風が吹いて。
私たちにとっての仕事の終わりになる、朝日が顔を出し始めていた。
「…三成…」
会いたい、会って無性にこの悔しさを吐露してしまいたい。
この思いを、この遣る瀬無い思いを共有出来るのは三成しか居ない。
壁伝いに部屋の襖を空け、対の部屋の三成の襖に手をかけた。
朝日の入らないこちらの部屋は、陰鬱な黒さを秘めていた。
「…邪魔するぞ?」
それは痛々しい光景としか言いようが無かった。
私が茶を挽いていた代わりに、三成は抱かれたんだ。
そうとしか思いの致しようが無い有様。
「…何時になれば、俺たちは年季が明けるんだっ…」
そんな三成が、此処に来て以来始めて私に愚痴を零した。
「兼続、三成と呼んでくれ。俺は三成だ。おみつ等では無い」
唯一の生きる希望が壊れていく音がした。
汚い布団に膝を付いて、三成の顔を覗きこむ。
何時も気丈に私を支えてくれた三成が。
生きて此処を出なければ、生まれてきた意味がないと。
死んでしまいたかった私を励ましてくれた三成が!
兼続はこれ以上壊れないように三成を抱き締めた。