玩弄 牡丹帛










 * * *

東の部屋は通りに面していて、大通りを一本入った脇道を見下ろせる。
おかねは窓から外を見下ろした。それはもう習慣に近かった。
得意気におなごの肩を抱きながら歩く男。
手押し車に乗って春を買いに来る男。
男に郭が天国ならば女に郭はまさに地獄。
おかねはそう思いながら、目を細めた。
「男でも地獄だがな…」
自嘲を浮かべて、片足の腱を擦った。
もう踏み締めても力の入ることのない足。
「…ぁ」
おかねは窓から控目に首を出した。
金髪を無造作に掻き上げて着崩した着物を翻す。
天下に名高き歌舞伎者。
足を擦っていた手前、その奔放な歩き振りに瞳を奪われる。
「…あんなふうに…風を切って…」
歩けたなら。
歌舞伎者の横を歩いていた花魁がちらっと顔を上げた。
どうやら私の視線に気付いたらしい。
横の歌舞伎者を突いて上を見ろと促した。
「陰がでしゃばって日向覗いてますよぉ」
おかねは直ぐさま身を引っ込めて、障子を閉めた。
やり場の無い悔しさ。膝を抱えて奥歯を噛み締めた。
どうしてあんなこと言われなくちゃならない。
好きでこんなことやってる訳じゃない…!
「…おかね、一見さんだよ」
暫くして襖を叩かれ、泣いていた事に気付いた。
「………はぃ…」
落ちてしまった目尻の朱を入れ直す。
入れ直したあと、再び潤みそうな瞳を硬く瞑った。
一見様に会う部屋には、屈強な番頭に抱き上げられて連れて行かれるのが慣わしだった。
その番頭が、準備が出来たおかねを肩に担ぎ上げ客の居る部屋を目指す。
部屋に入り程なくして、伊達財閥の御曹司が入ってきた。
「…そちが東の牡丹か」
顔を伏せていたおかねは、顔を見せよとの命令に面を上げた。
ほほぅ。と伊達の御曹司は含み笑う。
思った以上だとの反応に違いなかった。
「手を触れねばよいのであろう?」
隣に座る女将に確認を取ると、伊達様は立ち上がり近寄ってきた。
そして懐から扇子を取り出しおかねの左頬に付ける。
そのまま軽く力を入れたので、おかねは横顔になれと言われたと思い顔を背けた。
耳朶の高さで切り揃えられた前髪がさらりと流れ、厚い唇が艶かしい。
「…涼しき美形じゃ、気に入った。」