玩弄 牡丹帛









東の牡丹に西の薔薇
誰の御相手致しませう
一夜限りのこの躯
主に御捧げ致しませう

 * * *

定めを覆すこと等もう諦めた。
私が最後に見た故郷の雪景色は、総てを染める銀世界。
その凍て付きを溶かす、鮮血の赤。
目の前で両親を失った直後に、私の意識は飛んだ。
次に気がついた時は華やいだ遊郭の門を過ぎた時だった。
叫び声を上げようとしても、手足、口まで縛られて身動きひとつ取れない。
身を捩るうち、荷車にもう一人乗せられていたことに気付いた。
同い年ぐらいだが、気を失っている口の端からは血が流れている。
仄かに、生き地獄の匂いがした。
「おかね。今日もひと稼ぎするんだよ」
京都の格子戸を真似られて作られた窓から、小さな空を眺め追憶に浸っていたおかねは、急に現実に引き戻される。
女将の高らかな声が、先程までの思い出と対比して息苦しい。
おかねの気持ちは更に塞ぐばかり。
「…仰せの儘に…」
畏まり頭を軽く下げると、女将は満足そうに部屋を後にした。
間も無く勤め開始を知らせる鐘が鳴り、来客を知らせる呼び声。
おかねは、白に蒼と銀で染め上げた着物を着込んだ胸を張る。
牡丹という名前と共に宛がわれた一級品の着物。
その刺繍を指でなぞり、織り込まれた白い牡丹を眺めながら考える。
散る花になるには後…と。
しかしおかねは考えるのを止めようと頭を振った。
不毛な取り留めの無い願いだと唇を噛む。
借金のかたに売られたわけではないこの身は。
どれだけ体を開いても、終わることの無い身売りを…
「…空が落ちれば良いのに…」
仏の来光の様な空色に、おかねは呟いた。