玩弄 牡丹帛










 * * * 

震える腕が私を再び抱えた時、思いの深さに溺れそうになった。
慶次はそれからあまり喋らずに道の端に見つけた木小屋に兼続を抱えて入った。
中は囲炉裏と水瓶という本当に休むだけのような所。
「一先ず、此処で寝ててくれ…」
兼続は板間に下ろされ、着物の上に慶次の着物をかけられた。
「……何処に…?」
立ち上がり背を向けた慶次に兼続は声をかける。
その後姿に一抹の不安を感じたからだった。
慶次は振り返り、どう考えても無理に笑った。
「飲み水とか、食いもんとか…調達してくるよ…」
金じゃ腹は膨れない。と金を包んだ袋を置いて木小屋の戸を閉めた。
薄暗くて黴臭い小屋。
兼続は慶次の着物を強く引きつけて、身を縮こまらせる。
心は掻き回され、入り乱れ渦巻き、言いようも無い苦しさが体以上にきつかった。
私は、あの手紙を読むにつれ心の何処かで、どうして攫ってくれないのかと思っていた。
好きじゃないなら、こんな私に毎日手紙など書くものかと。
本当に好きなら、草子にあるように忍んで攫ってくれたら良いのにと。
名前も知らないのに恋焦がれて、これは遊びなんだと言い聞かせながらも期待して。
…思い通りになったのに、攫いだしてくれたのに。
飛び降りたときに、受け止めてくれた腕の温かさがこの思いを助長させる。
私はお荷物になって。熱まで出して気を使わせて。
仕舞いには、手を汚させて。
こんなことなら、こんなことなら。
あの時返事を出しさえしなければ…!
「…慶次様…慶次様………」
瞳を閉じれば、あんたの為なら人も殺せると安心させるように微笑んだ顔。
そんな決意をさせてしまったのは誰?
兼続は、追い詰めると分かっていても追い詰めるしか手が無い。
人をも殺させる決意をさせてしまったのは。
誰よりも罪深いのは。
「…済まない…っ!」
固く瞑った瞳からは、縷々と涙が溢れる。
全て自分のせいではないか。
滑りの悪い引き戸ががたと開けられ、埃っぽい光が差し込んできた。
「…久しぶりに、今日は…兼続?どうした?」
慶次は手に持っているものを置いて兼続に寄る。
手を差し伸べようとした慶次は己の手が泥で汚れている事に気付いて、流れる涙を吸った。
瞳で慶次を捉える度に、その己の惨忍さに息をしたくなくなる。