玩弄 牡丹帛










 * * * 

目が覚めたときに、最初に飛び込んできたのは。
心の拠り所の親友の泣き顔だった。
済まないと謝りぽろぽろと落とす涙は、幼少の頃に見た朝露の美しさに似ていた。
友を使うようで悪いが、背中の血糊がシーツと傷口を張り付かせて痛かったから医者を呼んでもらった。
以前に来た医者の若い方が、目の下に濃い隈を作りながらやって来て少々悪い気がした。
「…だいぶ血が出てます…絶対に安静にしとかないととあれ程…」
何度も消毒液を優しく押し当てて、徐々に傷口からシーツを剥がす。
「…はは、…安静にはしてたはずなんだが…」
言うと困ってしまうと分かっていても、言ってしまう。
医者も困ったように口を噤んで、そのまま傷口を包帯で巻きだした。
「兄さん!」
襖を引くより早く、おゆきの声がして次の瞬間には膝枕に縋りつかれていた。
医者が怒ろうとしたが、その気も失せてしまったのだろう。
立てた膝をまた中腰にして私の肩に包帯を巻き続けている。
「泣くでない…おのこが…」
声を殺して必死に縋ってきた手には、煙草を押し付けられた火傷の痕。
「痛かったろう…」
ぶんぶんと押し付けた頭を振るが、行動とは裏腹に痛かったと怖かったと流れる涙が語っている。
兼続は黒い髪を撫でてやりつつ、良く頑張ったと褒めてやった。
包帯も無事に巻き終わり、さて疲れたからと体を横たえようとして兼続はおゆきと声を掛けた。
だが、すっかり安心したのか私の膝の上ですやすやと吐息をたてて寝てしまったおゆき。
兼続は微笑ましいと笑って、可愛いなと撫でる。
「…してやれることが、これぐらいしかない…」
不意に三成が呟いた言葉に兼続は顔をあげて、三成を見る。
「こんなことを頼めるのは、お前しか居ないんだ…三成」
お前だからこそ、お前だからこそなんだと。
改めて言ったらそっけなく、よく言うと返されてしまった。
だが私は知っている。それが照れ隠しだということぐらい。
こんなに心配してくれて、思ってくれる友を持てて…日も浅いのに慕ってくれる子も居て…
兼続はそんな事を思いながら、有り難いよ、と言葉を落とした時だった。
「りんごっごま、マント、蜻蛉!本棚、菜っ葉、花っ!」
口を押さえずには居られなかった。
幾度と無く読み返したから決して忘れられやしない、その単語の羅列。
姿を見たくて見たくて仕方が無かったその人の、声。