後ろ手で閉める襖が憎いほどに歯切れのいい音を立てた。
「頭で分からねば、体に教えるしかない。そうだろう牡丹?」
政宗はしゃがんで伏せたままの兼続の顎を掴んだ。
力を入れても、兼続は決して政宗の顔を見ようとはしなかった。
「…頭の弱い奴は、嫌いよ…」
御曹司はそういいながら、己が刺した牡丹の肩口を思いっきり掴んで爪を立てた。
「っ…ぅう、………っ!」
おかねは必死に泣き声を噛み殺し、目の前の非道な男を睨んだ。
「…言った筈じゃ、従順な犬が好きだとな!」
政宗はおかねを褥に投げて、体に巻いてある包帯をあの時の小刀で切り肌を露わにさせる。
心だけは渡さないことしか出来ない兼続は、ひたすら政宗を睨み続けた。
「媚びる事を知らぬ所が、また良い」
その人を見下したような目を服従させる事が、何よりも気味が良いと政宗は笑う。
そして、布団に爪を立てている手を掴みあげられ、頭上に押し付けられた時。
手に握りこんでいた手紙とお手玉が、ぱらりと顔の横に落ちた。
「何じゃこれは。」
政宗は上に羽織っているスーツを脱ぎ飛ばして、その手紙を拾おうとした。
やめろ、触るな。それだけは、それだけは。
「触るなっ!」
牡丹が始めて怒鳴ったことに、急に顔を険しくして御曹司は手紙を拾い中身を見た。
だが険しかった顔はすぐさま小馬鹿にしたような笑に変わる。
「陰間とは、暇なのだな…さっきの五月蝿い童としりとりとは…」
ズボンのポケットからマッチを取り出した政宗は、呆れると言いながらマッチを擦った。
「やめっ、やめ!」
兼続が反発すればするほど、政宗が高揚することを兼続は知る由も無い。
政宗は紙に火を付けると、マッチもろとも灰皿に投げ入れた。
そして、何を泣いておる?と意地悪く微笑んでみせた。
しかし政宗は兼続の瞳には映っては居なかった。
兼続はあっと言う間に灰になる手紙を見詰めぽろりと涙を流した。
それが、政宗を怒らせない訳が無い。
「誰が余所見しろと言った?」
只管に冷たい声音と共に、御曹司は牡丹の白い肌に鋭い爪を食い込ませた。
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