玩弄 牡丹帛










 * * *

何時の間にか、文通は暇つぶしでは無くなってしまっていた。
次の日の昼下がりには、またお手玉が飛んできて兼続は胸を高鳴らせた。
今度はちゃんとた手紙の文面で、先日は失礼したと真面目に書かれてあった。
しかも見れば見るほど美しい字で、一体どんな人がこれを書いたのかと恐れ多くさえ感じた程。
だが、兼続は手紙の返事を取りに来るその姿を見ようとは思わなかった。
例えば、鶴の恩返しのように。
姿を見てしまえば最後、二度と手紙を貰えないような気がした。
どれだけ現実味のある話が書面に記されていても、俗っぽい冗談が書かれていても。
こんな陰間に興味を示して、楽しませてくれる人がこの世に居るなんて思えなかった。
「…しかし、しりとりなんて…本当に幼い頃以来だ…」
手紙は最近、しりとりになっていた。
一週間もすれば、私の少ない話題はあっという間に尽きてしまう。
出し惜しみをすれば良かったかとも思ったが、何せ相手は話題豊富で面白い。
そんな人に、見限られたくなくてもっと相手をして欲しくて。
そして気が付けば、書くことがひとつも無くなってしまった。
私は申し訳なさで一杯になりながら、済まないもう話すことが無いとだけ書いて、手紙をお手玉に詰めた。
そしたら今度は、しりとりをしよう。と書かれた紙と。
もう一枚には『しりとりのりから、りんご』と書いてあって、りんごの様な絵も描かれていた。
「…優しい人だな…」
兼続はそれだけで、なんだか胸が詰まってどうしようもなく、もう一度手紙を見ながら優しいと言った。
その紙に続いて『ごま』と書いて胡麻の絵を描いた。
しりとりは一つの紙に少しづつ書き足されて、それを見るだけでその時の情景が浮かび楽しかった。
「今度は…『すな』…か」
兼続は、名前。と呟いて、これでいいと笑った。
「名前か…」
お手玉を片手に置いて包み込むようにしながら、兼続はそなたの名前は何なのだ?と頭を傾げた。
その時、看病をしてくれている陰間見習いが部屋の外で悲鳴を上げた。
「伊達様、牡丹兄さんは未だ…」
「構わぬそこを退け、退かぬなら灸を据えてやろう」
襖越しに聞こえる声。
兼続はすぐさま危険だと悟ったが、傷を負っている体は思うように動かない。
駄目だ間に合わない。
やめろ、私だけで良い筈だろう!
「政宗様っ!」
兼続は、あらん限りの声で政宗を呼んだ。
しかし私の叫び声とほぼ同時に、幼子の痛いやめてとの悲痛な叫び。
「大人の言うことを聞かねばどうなるか、」
すぱんと引かれた牡丹の部屋の襖。
間に合わなかったことに床に爪を立てて悔しがる兼続を見下ろす御曹司。