玩弄 牡丹帛









暁と呼ばれる時刻になった頃。
俺はとうとう我慢できなくて、再び店の下まで足を伸ばしていた。
しっとりとした夜の静けさが辺りを包んでいる。
人の出入りは無く、街灯と店の入り口の明かりだけが寂しく光っていた。
幸い店の横には電柱もどきのような物が立っていて、俺はそれを上った。
いざとなれば、隣の店の女を買ってまでも屋根伝いに手紙を取りに行こうと思っていた。
「…」
出来るだけ音を出さないように瓦を踏みしめ、牡丹の部屋の窓の前まで行く。
窓枠の端のほうに、ちょこんと乗せられてあったお手玉に慶次は思わず微笑む。
確実に部屋の中に投げ入れたから、こんなところにおいてあるのは中身を見てくれたという証拠。
慶次はお手玉を懐に大事にしまって、それから閉ざされた格子戸の中を覗こうとした。
しかし慶次は、自分を叱咤して思い留まる。
「…多くを望んじゃいけねぇ…」
慶次は窓に向かっておやすみ。と言い屋根を降りた。
家に帰ってからじっくりとその手紙を見ようと、帰り道は足が急いた。
だが結局は見たい願望に負けてしまい、最寄の街灯に寄り手紙を見てしまった。
「こりゃ…面白い御仁だねぇ…」
俺の絵を真似した訳では無いだろうが、似たり寄ったりな虎と竜が紙面でじゃれ合っている。
矢印までして私のほうがそれっぽくないか?なんて書いてもある。
それから短い文章。
何だろう、この胸の奥から込上げる、苦しいような甘酢っぱい気持ちは。
手紙を胸に押し付けて、抱き締めるように俯く。
「こんなに、嬉しいもんだとは…」
貴方は不思議だ、出来ればこれからも手紙を貰えないだろうか?
こんな殺し文句。
今まで誰からも、言われたことなんて無かった。