和の言葉を題材にして50のお題





宵待草



内から香る、噎せ返るほどの色香は。
さながら無自覚な色情狂。
貴方は知らない。
己がいかに人を惑わす咎人かを。
あぁ、日が暮れる。日輪が傾き大空を染める。
飛び交う赤蜻蛉は徐々に形を潜め、蛍が身を焦がし始める。
葉の裏から飛び立つ蛍は、黙って身を舞わせ、最後の恋を探している。
翠天に星になろうと命を涸らす…その様ときたら。
「…済まぬ、所用があったのだ。反故にする気は無かった…勿論…っ…」
呼び出せば良いのに、俺ぐらい。
左近は三成を見詰めた。
何を言っても、俺たちは主従なのに。
貴方は、真にいじらしい。
「…殿が来なければ、俺に夜は来ません。何時までも待ちますよ」
三成は、走って上気した顔を隠し目を細める。
左近は微笑んで、三成と名を呼んだ。
…目の前で狂った様に舞い踊り、朝には命が尽きるのに。
相手をしないなんて、どうして慈悲の無い真似が出来よう。
お前の特別になりたいと。
必死で体現しているのに。
三成は左近に近寄り、立膝で座ったと思えばそのまま項垂れる。
肩で息をしながら、薄っすら汗に濡れた項。
どうやら早馬で飛んで帰ってこられたのだろう。
無垢過ぎる罪人…
「宵待草って、夜っぴてだけの命でしたね…」
俺の前で咲くのなら、俺が愛でずに誰が愛でよう。
左近はしっとりと汗ばんだ頬に触れ髪を弄る。
貴方の伏せた長い睫が、音を立てた。
さぁ、狂おしく咲き乱れておくれ。
俺の元に彷徨い着いたのなら。