和の言葉を題材にして50のお題





微睡み



虚ろ虚ろと縁側で、昼から杯を傾ける男。
ふらりと男に魅せられて、吸い寄せられる花弁が、杯に舞い降りる。
控えめな櫻色。くすりと笑う金色の虎。
愛おしいと細められた目は、彼の人に向けられるものにも似ていた。
「…慶次、昼の最中に…」
と庭先から思い人。
端整でどこか艶やかな顔。丹花の唇は生まれながらにして淫靡。
揃えられた前髪、結い上げられた黒髪。
これで椿油は使っていないってんだから。全く。
女でもないのに、肌は白皙にして絖の様な肌理細やかさときたもんだ。
あぁ、俺に一体全体どうしろって言うのかね。
「……あんたは、また俺に説教を垂れに来たのかい?…」
春の日差しが、虎の言葉を聞いて薄く笑った顔を照らした。
御伽噺に出てくる、どんな薄幸な女よりも美しくて。
どこか脆い、その笑顔。
「…虎よ、噛み付かないでおくれよ」
兼続は慶次の寝そべっている近くに、己の身を横たえた。
そして、櫻の浮いた杯を勝手に飲み干す。
「…ほぉ。美味い物だな、昼間からの酒と言うのも」
「随分と、白昼堂々として物腰柔らかな横奪だねぇ」
慶次は面白いと含み笑い、兼続の下顎に手を掛けた。
桜の花弁が雪のように落ちてくる。
「…そうでもせぬと、私の事等忘れてしまうくせに」
見上げる瞳は濡羽色。
逢えない寂しさを、微睡みにあんたを求めて不貞寝しようとしていた刹那。
慶次は噛み付くように兼続に接吻し、体を抱き寄せた。
降り敷いた薄い虹色が、鮮やかな赤紅を帯びる。