和の言葉を題材にして50のお題





静 寂



隙間風が時折、蝋燭を揺らめかす。
半透明に上る煙が靡き緩やかに闇に帰する。
同衾している、左近の布団の中でふと瞳に映った。
それにしても左近の布団は…幅を取る。
これが一人用と言うのだから、さぞ婚礼布団などは大きいのだろう。
…あまり想像したくは無いが。
隣の左近は目を伏せている。いつもの精悍で…どこか繊細な顔。
何時も後ろで束ねている髪は梳いてある。
仄かに光る淡い光は、当たるところはほんのり柑子色に染めて。
当たらない所に出来る陰を際立たせた。
なるほど、こうして見ると…割合掘りが深い気がする。
三成はそっと頬の傷に触れた。
追い傷は武士の恥。
向い傷は武士の誉。
…だが、見えない所に出来た物なら、慎ましやかでもっと良かったのだが…
ふっと、左近の目蓋が上がり三成を捕らえた。
「…眠られませ、疲れたでしょうに…」
左近は三成の腰に手を回して、己に引き寄せ、肩口に掛け布団を掛け直した。
そして眠気には勝てないのか左近はまた深い呼吸をしだす。
急に蝋燭がはたりと動いて、燃えた。
最後の煌きだったのだろう。蝋燭は緩々と光を失った。
炎の消えた部屋、物の燃える音さえせず、言葉すら交わさない。
三成は少し布団に潜り込み、左近の心の臓に耳を傾ける。
鳥の鳴き声のように美しくもなければ、虫の音のように可愛らしくもない。
だが、どうして。
お前を感じれるこの静寂の幸せなこと。
「……あぁ…」
溜息さえ、こんなに。
甘い。