和の言葉を題材にして50のお題





花 火



空に咲く大輪の花は人の一生の様。
何もかもを惹きつける一瞬の夜の花。
「いい場所だろう…?」
慶次は杯を花火に向かい突き出してお前も一杯どうだねと笑いかける。
その横顔はまるで友にでも話しかけているように嬉しそうで。
少しだけ私の元より遠のいた気がした。
「…そうだな、いや…いい歳になってまさか屋根の上に上るとは思ってなかった」
兼続はくすりと笑い、手酌で杯を満たす。
すると慶次はその徳利を取り上げて、兼続に言う。
「あんたみたいな堅物ばっかりだから…世界が色をなくすんだよ」
そして続けて。
「今…あんたはこの空を見てどう思う?いつもと変わらないかぃ?」
そう言って覗かれた慶次の瞳に映る私は、今どんな顔をしているのだろう。
慶次はふと視線を逸らして、また花火を眺める。
何処かこの世を果敢無んでいる慶次の顔が、いやに切ない。
「…手を伸ばしても届かないのに、さらに遠くに行ってしまいそうで…些か怖いな…」
兼続は派手な着物の袖口を抓んだ。
「なんだそりゃぁ…答えになってないじゃ…」
私を見た瞳が、慶次の紫黒の瞳が揺れた。
「…もう、見たくない…」
慶次が連れて行かれるような胸騒ぎがする。
ああ成れたら良かったななんて言い出す前に連れて帰りたい。
今からでも間に合うかななんて言い出す、前に…
「…ごめん、何か俺…あんたを傷付けること言ったか…」
慶次は徳利と杯を置いて兼続に近寄る。
また空に火の花が咲く。
「…違う、降りよう…一緒に降りてくれぬか…」
抱き締められた腕の中で、兼続は訴えた。
慶次に好かれる花火が嫌なのか。
花火に魅せられた横顔を見るのが嫌なのか。
兼続には分からなかった。