和の言葉を題材にして50のお題





煙 管



殿が俺の部屋で寛いでいる事は良くある事。
自室とは名ばかりで、殿の自室では心休める事などない。
部屋には小姓が二人はおり、監視されているようなもの。
だから殿は何かとつけて俺の所にやってくる。
そして俺が居れば、突っかかってくるしちょっかいを出してくる。
居なければ居ないで、勝手に上がり込んでいる。
主従にして思い人。
何処にも文句を言えないのが正直な所である。
そして今日もそれは変わらず、屋敷に戻ると、厩には殿の愛馬。
機嫌を損ねておられるやもと、急いで足を洗って、母屋に上がる。
自室に近づき、さて今日はどんな言い訳をしようかと考えた刹那。
「ごほっぼほっ…っごほごほ…」
と何かに咳き込む殿の声。
左近は柱に近い障子を少しだけ開けて中を窺う。
殿はどうやら俺の煙管で煙草を吹かしているようだった。
いや、吸い込んで咳き込んでいると言ったほうが正しい。
殿は俺に見られているとも知らず、こんなものとぞんざいに畳に煙管を投げる。
そして、左近…と呟いた。
左近は得体の知れぬ罪悪感が胸の辺りでもやもやするのを感じた。
…こんなとこで覗いてる場合じゃない。
「もう少しだけ眺めていたいと思う俺は、いけ好かない男なんでしょうかねぇ」
左近は言いながら障子を引いた。