和の言葉を題材にして50のお題





細 波



群青の波、狭間に揺れる銀の月影。
三成は扇を片手に寒桜を見上げた。
そしてまたひとつ溜息を落す。
地面を見ては、降り敷いた花弁が転々。
水面に視線を移せば、漣が月を砕く。
「こんな思いを、俺は知らん…」
どうとも思わなかった光景が、いやに切なく色付く。
己の吐く白い息でさえ、不可思議なほどに美しくて。
どこか、蕭条。
「………」
三成は扇でそっと花に触れる。
程無く、解れた櫻は五つになり。
螺旋を描いて行方知らず。
「絵になるお方ですね、殿って」
声の主が、割と近くに居て三成は徐に顔を向ける。
「…厭きたと言っているだろう、褒めても何も出ん」
心の水面に細波がやってくる。
何故かは分からない。
ただそれは、勝手に波立ち痛い位に押し寄せる。
…お前は、苦手だ。
左近は、随分な嫌われ様とおどけて、それから懐より文を出す。
「…私心です、どうか…咲くなら実りたいもので…」
三成は握らされた文を片手に、唖然と左近を見る。
左近は薄く笑って、踵を返した。
風も無いのに、花が散り左近と三成を隔てるように舞い落ちる。
波に砕かれた月が、地の星の如く煌いた。