和の言葉を題材にして50のお題





遊 女



「ええ男…益荒男と言うよりかは…手弱女なお顔やけど…」
遊女は三成の手の杯に酒を注ぎながら、うっとりと言葉を落した。
「三成ばっかり褒めるでにゃぁて!気持ちも分からんでないがなぁ」
秀吉は傍らの女子の肩を抱いて、笑いながら三成を扇で指す。
三成は、目であちらに行くのだと酌をしていた遊女に合図を送る。
後ろ髪引かれる思いなのか、遊女は眉を寄せ、いけずと小さく口を動かす。
「…まったく、蝶よ花よの持て囃され振りですなぁ」
遊女が離れた後。三成の後ろで、控えめに座っていた左近が面白げに言った。
三成はにじりと下がり、左近に託ける。
「…他の遊女にいい伝えよ、くれぐれも俺ではなく秀吉様を褒めよとっ」
左近は更に顔を歪めて、手は尽くしますがと言った。
三成は秀吉の視線が時折自分に向くたびに冷や冷やしていた。
それから、明日のねねに対する誤魔化し方も必死に考えている。
頭は粗相を起こさないようにと、必死だった。
なのに、左近ときたら。
「…でも、度が過ぎると本音ってもんは出ちゃいますからねぇ」
おまけに遊女らにも酒をあおらせている。
人間に間違いを起こさない奴なんて居ない。酒が入ると尚更。
そんな事を耳打ちしてくる。
「口が酸っぱくなる程念を押せっ」
お前に説教されている暇は無い。
三成は小声で左近に苛立ちをぶつけたが。
左近は、さも当然のように肩をすくめて言った。
「しょうがないですよ、殿がお美しいのが悪いのです。」
三成が左近を咎めようとした直後に、秀吉が三成を呼んだ。
左近は素早く秀吉の視界に入らないように遠のき、手近な遊女に近寄りながら耳打ちを始める。
「三成っ、酒を飲まぬか。っておみゃぁ…酔いが回って顔が真っ赤じゃの!」
三成は、苦笑いしながら内心で左近を罵倒しまくっていた。