和の言葉を題材にして50のお題





草 枕



終の棲家を見つけたと、思っていた。
深い雪に見舞われ何もかもが白に染まる景色。
春の息吹は忙しなく桜花を舞い散らす。
蝉時雨に入道雲、俄か雨に朝顔。
紅葉が山を斑に彩り、菊が露を纏ったと思えば。
また粉雪がちらつき始める。
一見どこにでもありそうな四季の移り変わり。
だが、ここにはそれにも引けを取らない…
いや、それをも引き立たて役にしてしまうあんたが居た。
なんども廻ってきた春夏秋冬も、あんたと一緒なら面白いぐらいに麗しいものと成る。
もう何処にこれ以上を探しに行っても、見つかるとは思えない。
だから此処が…
そう思っていたのに。
「…慶次、私はいつまでそなたの…草枕に成れようか…」
縁側で座って、夕日を眺めていた背中がぽつりとそんな事を言った。
夕日に縁取られた兼続はゆっくりと俯き、橙に光る結い上げた髪を滑らせた。
どうしてそんな物悲しい事言うのか。
慶次は近寄り、そっと肩に手を置いた。
端雅な顔が俺を見て、言葉も無く悲しい笑みを称えた。
「…もう、そろそろ…そなたは此処にも厭きてしまったであろうよ…」
自分は、伝えなかった事に後悔した。
己が満たされ幸せ過ぎると、つい相手もそうなのだと思い込んでしまう。
俺は兼続もまた同じ気持ちだと思っていた。
「…兼続」
どんな気持ちで、毎日毎日俺を見つけては喜んで。
帰って行くときは心を病ませていたんだろうな。
潔いあんたの事だから、いつもいつも。
今日が最後かもと思って居たんだろうな……
「米沢の牡丹は、米沢だからこそ美しくってね」
慶次は兼続の白い頬に、手を沿わせ目を隠すような前髪を耳に掛ける。
「連れ去る術を知らないから、ずぅっと此処で懸想し続けたいんだが…」
駄目かね?と慶次は頭を傾げる。
兼続の瞳は潤み、嘘のようだ…と己の頬にある慶次の手に手を重ねた。
あぁ、あんたの苦しい思いが俺に流れ込んでくる。
夕日に焦がされた恋慕が、行き場所を無くしてこんなにこんなに。
切なく色付いていたんだねぇ。
「兼続…」
睫を濡らしながら嬉しそうに笑う兼続に、慶次は堪えきれず唇を重ねた。