和の言葉を題材にして50のお題





仮初めの恋



間違いで良かった。
そなたが私を、相手にしてくれるのなら。
それでも良かった。
「京に…戻る…?」
言いたい事は沢山あった。
何でも言ってその身を引き止めたかった。
だが、口から出た一言は。
「…そうか、また何時か…逢ってくれ。…達者でな…」
だった。
慶次が果敢無いような、遣る瀬無いような顔をした。
その顔を見続ける余裕が無くて、兼続は立ち上がり、部屋を出た。
死ぬのならいつでも出来ると頬を殴ったのも、ずっとあんたに惚れてたってのも。
俺のものになってくれと言ったのも…
たった今、仮初だったのだと気付く。
「兼続…」
追いかけてきた慶次が、兼続の手首を掴んで、引き止める。
兼続は振り返ること無く、何だ?と言った。
「…引き止めてくれないのかい?」
…身勝手な事を言うっ!
「…好きなところへ行けば良いだろう。」
手首を掴む力が強くなった。
「…最後に突き放すなら…最初から優しくしないでくれたら良かった…っ…」
手首の慶次の手を振り解き、兼続は振り返る。
「どうしてあのときに、死なせてくれなかったっ…!」
「あんた…俺が、あんたを捨てるなんて思ってんじゃないだろうなっ!?」
肩を掴まれ、兼続は身を捩った。
「実質的にはそうだろう!?」
今更、京に戻るなんて。
そうでしか無いだろう。
そなたが望むならそのようにしてやりたいから。
もう深く問い詰めないでくれ。
私の気持ちなど。
この関係が間違いだったと言いたいなら。
それでも良いから。
だから…
「置いていかないでくれ…っ」
心とは裏腹に、口は本音を呟いたが兼続は気付いてなかった。
混乱しすぎて何を思っているのか、何を言っているのかも分かっていない。
「面白ぇ冗談言ってんじゃねぇよ」
慶次は苛立ちの混ざる声で、兼続を見据えた。
「早合点も大概にしろってんだ」
乱暴に引き寄せて、兼続を胸に沈める。
「必ず戻ってくるって、聞かない内に先走りしてりゃ世話ねぇよ。しかも先読みし過ぎだっての」
兼続は、慶次の腕の中でその言葉を聞きふるふると震えながら背中に腕を回した。
「必ず帰ってくるから…」
待ってて欲しい。
廊下で男泣きする兼続に、慶次は何度も帰ってくるからと言い聞かせた。