和の言葉を題材にして50のお題





佳人薄命



「あんた、綺麗だから少しは自覚しなよ」
「………未明もいい所だと思うのは私だけか?」
兼続は慶次を一瞥して、大きな溜息を吐いた。
昨日は執務で遅かったのだ、そして今。
慶次の杞憂で叩き起こされた兼続。
疲れが全然取れていない。
「…いい夢を見れなくってねぇ、居ても立っても居られな」
「解った!解った…分かった…」
普段、粋だの無粋だの陳腐だのいなせだのに矢鱈と拘る慶次。
だが時々、こんな風に周りが見えなくなるときがあった。
慶次は懐から、漢方薬の包み紙を手に余る程出した。
「これが、南蛮の商人から買ったもんで、これが琉球王国ので、これが俺が調」
「慶次、慶次。慶次!」
兼続の声に、慶次は手から零れる薬をそのままに顔をあげる。
「私は、ここに居るだろう?元気だ…ほら…」
薬方を抓んでいた手の方を取り、兼続は己の頬に慶次の手を添わせた。
「…どうしたのだ?」
ぱらぱらと手から薬を落し、慶次は兼続を抱き締めた。
「才子多病って言うじゃぁないか…」
「…私は才子でも多病でもない。大丈夫だ…」
慶次は押し黙り、言葉の変わりに体を強く抱き締めた。
「世の…理なんだよ。綺麗な人が早死にすんのは…」
兼続は言い返そうとして、止めた。
先程頬に触れさせた手。あれが驚くほどに冷たかった。
きっと、よっぽどだったのだろう。
思えば慶次は寝巻きだけの格好。
幾ら大男で体温が高いと言われても。
この時分、寒くないはず無いのだ。
「…そなたは、愛おしいな…」
本当に、愛しすぎて、困ってしまうよ。