和の言葉を題材にして50のお題





波のまにまに



誘われて漂うのは己の心か、貴方の心か。
微かに吹いた風が、水面を波打たせて波紋を描く。
澄み切った水面に映る貴方の顔が揺れて闇に混ざる。
「月に群雲、花に風…」
三成は呟いて自分の手で波紋をかき混ぜた。
「…殿、美しい顔を覗きすぎて水琴窟に落ちないで下さいよ」
「ふざけるな、俺はそのような童に見えるか?」
それに、男の顔が美しいからと言って何の得がある。
三成のむすっとした顔が、左近を見て目を逸らした。
「池に落ちたなら、助けられる気がするんですけれどね…」
左近は水琴窟を指差して笑う。
「そっちは、小さい分…なんだか他所に繋がってる気がしないでもなくて…」
「…お前は訳の解らん事を…」
不意に風が止んでいた事に気付き、三成はまた水琴窟を覗いた。
「…訳の解らないのは俺ですよ、態々水の落ちるのを堰き止めて…」
水面を眺め続けているんですから。
水琴窟の意味が無い。
「黙れ、俺は…やっと見下せる」
三成はそう言って、水面を指差す。
左近は宵闇に軒先から出て三成に近寄る。
「雲も流れて、俺は漸く月を捕まえたのだ」
丸い水琴窟に浮かぶ、白い月が小さく煌いていた。
「聊か、子供っぽいですが…風流な事をなさいますね…」
左近が笑った横で、三成は当然だと笑った。