和の言葉を題材にして50のお題





柘植の櫛



俺の髪は色こそ他人とは違い、多少明るく…美しいらしい。
世に真、珍しき亜麻色よ。
秀吉様が一度そう言って頭を撫でた後、妹は居ないのかと笑ったのはよく覚えている。
だが、女ではない俺は髪の手入れなんてのはあまりしない。
寝起きはまぁ、顔に掛かる髪を掻き上げて手櫛で整えれば何時もどおりになる。
だから、左近が髪を梳いて居るのを見たときは驚いた。
その後姿は、なんと言うか滑稽で。
「………獣が上品に毛繕いしているように見えるな……」
「殿。好い加減失礼ですよ」
寝起きに髪を梳きながら振り返った左近。
どうしよう、どうしても面白い。
「限りなくお前にはその格好は不釣合いでいただけん」
「……殿、誰のせいでこんなに乱れたんでしょうねぇ……」
梳き終わった髪を無造作に束ねた左近はそう言って三成に近寄った。
「…お前、何が言いたい…」
「申し上げても宜しいので?」
左近は三成の手を取って、そっと自分の髪の紐を触らせた。
「確か昨日、こうやって…」
「さ、左近っ!」
三成は触り心地のいい、左近の髪が好きだった。
己のとは違い、しっとりとして指の間をすり抜ける。
長い髪が。
「…手を離せ…」
梳きたての髪が、三成の指先に触れた。
ぞくりと、背筋を撫でられる心持。
三成は何も言えず俯いた。
「朝から、色っぽい御方だ」
左近は片手に握った柘植の櫛を床に落した。