和の言葉を題材にして50のお題





初 戀



「愛し愛しと言う心…」
一瞬部屋が静まり返り、そして慶次は目を瞬かせた。
兼続はそんな慶次に見向きもせず、思い出すように呟く。
「素晴らしい…!」
その何かに満ち溢れている瞳の、なんと爛々としていることだろう。
童が知識を得て、それをものにできた時の満足そうな顔に近い。
「初めての懸想は、心中が愛しいと訴える思いが強い…!」
慶次は急に喋りだす兼続に慣れたとは言え、状況に追いつくのには時間を要する。
「だが…だとするとだな…」
慶次の目前の兼続は慶次を見詰め頬を染めた。
「私の初戀は、きっと慶次だ!」
兼続は本当に嬉しそうに慶次の双肩に手を置いた。
「生きてきた中で、こんなに人を愛しいと思ったことは無い!」
慶次はまた、ぱちぱちと瞳を閉じる。
「そなたが初戀で、私はなんと果報者であろうか」
「兼続…」
慶次はやっと兼続と同じ世界にまで戻ってきて、笑みを零した。
それは、さっき肩に置かれた手が微かに震えていたからだった。
そしてたったいま、俺が呼びかけたと同時にびくっと体を強張らせた仕草。
どうして気付かない事があるだろう。
「…」
慶次は人差し指で、兼続の官能的な唇を押さえた。
嬉しそうにしていた顔は、すぐさま困ったような見上げる顔となる。
多分…不安にさせたのだろうと思う。
俺の何がかは分からない。
だが、言わなきゃいけないと、不安にさせたのは、思わせたのは俺…
「…あんたに倣うなら、俺の初戀だって兼続。あんただよ」
見る見るうちに、兼続の顔が歪んだ。
「もっと欲しいかぃ…?」
途端、部屋から言葉が消える。