和の言葉を題材にして50のお題





武士の情け



触れないで居るのがやさしさと言うならば、俺は優しくないだろう。
あんたの棣鄂の情の深さは、傍から見ていても一目瞭然だったもんな。
でも、これ以上捨て置くなんて俺には出来なかった。
常世の国から、あんたの兄弟が舟を出してあんたを連れて行きそうだったから。
今にも。
そう、今にもだ。
「外になど用事は無い、頼むから私に構わないでくれ。」
そんな兼続の言葉を無視して、慶次は無理に手を取って兼続を外に引っ張り出した。
深雪は光さえ遮りそうなほどだが、心が洗われるような美しさ放っていた。
そして空は、雲を黄金に照らし不思議なほどに高かった。
「どうだい、あんた…こんなにゆっくりと自然を拝むなんて無かったんじゃないか?」
俺は、最低だよ。
「どんな夜が来ようとも、また朝が来て日が昇って…」
だって、死にたがってるあんたを死なせてやらないんだもんな。
「またこの世を照らすんだ」
後追いを止めさせ、潔い死を俺はあんたから奪ったんだ。
「……慶次」
武士の情けなんて、あったもんじゃない。
「…慶次……目尻で溶けた…雪が見苦しい…ぞ…」
俺の都合で、俺の勝手で。
「俺って、無様だねぇ…」
兼続は俯いた慶次の首に腕を回して抱き寄せた。
「…優男は、気を遣いすぎて早死にしてしまうと、相場が決まって…っ」
慶次は糸が切れた様に、兼続を抱き締めた。