和の言葉を題材にして50のお題





辞世の句



死際こそ己の最も価値の分かる時であろう。
三成は常日頃からそのような考えで辞世の句を考えていた。
かがり火…は是非ともいれたいものだ。
三成は書き損じの紙に篝火と書いて、筆を置いた。
こんな事考えないほうが良いのかも知れない。
だが、何時死ぬか分からないこの身。
後世に笑われる句など残したくないのも確かではないだろうか。
「殿」
失礼しますよ?と左近が急に入ってきた。
「不躾…」
「…殿は…篝火が好きですな…」
左近は反故にした紙に書かれた、篝火との草書を眺め眉下がりに言う。
三成は内心驚く。
お前に篝火が好きだ何て一言も言った覚えは無い。
「…何故そのように思った?」
「…見ていれば分かります」
貴方が、死に様を飾れないのの何が武士だと思っていることもね。
左近はそう言って、俺の使っていた硯で墨を磨り始めた。
「…俺の棄てた紙を漁っているのでは無いだろうな」
「…まさか…一体何年の付き合いだとお思いで?」
最近上手い事言い包められている気がしないでもない。
少し面白くないが、気の置けないとはこういうものかと嬉しくもなる。
左近は筆を持って、反故の紙に一言書いてにこっと笑った。
『死を持っても貴方を守ります』
三成は読んだ瞬間、左近を睨み悪い冗談だと怒鳴った。
「それが左近の生き方です」
言い切られてしまっては反論も出来ず、三成は苛立ちながら茶を出せと言った。
しかし、持ってきていたはずの茶は湯呑はあるのに中身が無い。
「…左近…っ」
三成は左近を責め立てようと声を荒げたのに、言葉が続かなかった。
こんな遺言、反則だ。
茶で磨った墨を用いた文章と言うものは。
遺言になって書いた人物は必ず死ぬという…言い伝え…が…
「殿がお悪いのですよ、左近の居ないあの世ばかり気に掛けるから…」
だから先に行って、きっとお待ち申し上げます。
そう言って三成引き寄せた左近の腕は、微かに震えていた。