和の言葉を題材にして50のお題









「鬼の霍乱とはよく言ったものだな」
殿は障子を閉めて暫く俺を眺めた後、嫌味を零した。
酷い言い様じゃぁないですか。
仮にも病人に向かって。
そんな事を言ってやりたくても、喉の激痛と体のだるさによってそれも叶わない。
左近は浅い息で自嘲した。
此処数日。
三寒四温の名の通り、季節の変わり目だった。
左近は三成にご自愛をと耳に胼胝が出来るほど言い聞かせていた。
幸いにも、体の強い方ではない三成は左近の忠言によって体調は崩さなかった。
だが代わりと言わんばかりに、左近が風邪に見舞われてしまったのだ。
立場も何もあったもんじゃない。
それを知ってか知らでか。
それほど気遣ってはいない口振とは打って変わって、殿は慇懃に俺に近寄る。
そして、額の上の手拭にそっと手を置いた。
「…人を気に掛け過ぎるのだ、お前は…」
見下ろしている殿の顔が、心成しか辛そうに見える。
「…お前は、雑務をするために召したのだ。勝手に休まれては困る…」
皮肉な筈なのに。
「俺の言いたい事は分かるだろう。…仕事が溜まるから早く…治せ…」
あぁ。何て。
可愛らしい人なんでしょう。
「…心配させるな…」
左近は、声の変わりに額に乗せられた手にそっと手を重ね合わせた。