和の言葉を題材にして50のお題





いざよひ



兼続も慶次も酒には滅法強かった。
軽い酒では酔えないと強い酒と十六夜の月を肴に飲んでいた。
扇を片手に慶次が舞い始めたと思えば、兼続は拍子を取って。
慶次が謡い始めれば兼続はそれで舞を舞った。
余程楽しいのだろう。
酒を運んでくる小姓がつい微笑んでしまうほど。
二人は幸せそうに酒を酌み交わす。
「…あんたと話すのは気が抜け無いが、こんなに面白い」
「私こそだ、教養の深いそなたにどう返せばいいのか…」
酔っ払いにそんなこと言われてもと慶次。
酔っては居ない、まだ素面だと兼続。
そんな二人だけの酒宴も時が過ぎれば言葉は減った。
夜も更け、ぽつぽつと本音が洩れる。
「……俺はあんたに惚れてるよ…」
柱に凭れながら、慶次は杯を傾けた。
「…私も、ぞっこんだ…」
兼続は嬉しそうに微笑んで、慶次の杯に酒を注ぐ。
何時も一緒だった。
こんな風にお互いの友情を確かめ合うのは。
そう、何時も一緒。
…何時まで一緒?
「……もう…猶予うのは御免だ。」
虎の心が悲鳴を上げていたのかもしれない。
「…おぃ、酒が零…………慶次…」
慶次は、兼続の手を引いて己の胸に誘った。
杯も徳利も落ちた。
「…友達だけじゃ、もう満足出来ねぇんだよ…」