和の言葉を題材にして50のお題





秋 霖



「…陰気だ…」
「しっとりとか言えないんですか?」
もっと情緒溢れる感じで。
そんな忠言じみた事を左近に言われる。
此処何日か降り続いている雨に三成がごちたら、左近がそんな風に返す。
最初はそれでもこの鬱陶しいさはしのげていた。
だがそんな会話も目新しくなくてなんだかだるい。
三成は己の赤みがかった髪を抓んで捩じった。
「…こうも続くと外にも出たくなるものだな」
しとしとと降り続く雨に悪態を吐く。
「仕方ありませんよ、日和だけはどうにも出来ません」
そんなこと分かっている。
苛々する。
もう一度外に視線を移した三成を左近は暫く眺めて。
ぽつりと一言。
「なら、今から出ますか?」
「…………………虫でも湧いたか?」
三成は左近に目もくれず、己の手で米神を指差した。
「……俺は出ますね」
「は!?」
顔を向けた三成を其の侭に、左近は立ち上がる。
そして廊下に出てそのまま庭に降りた。
しとしと降る雨は、霧とも違わぬ装いで瞬く間に左近に纏わりついた。
秋霖のどこか妖しい霧の中から、左近は俺を呼ぶ。
「どうです…水も滴る…でしょう?」
「早く中に入れ、馬鹿」
三成が催促するため廊下から手招いた手を、左近は捉え半ば強引に庭に引き摺り下ろした。
冷たい霧が自分をも包むのが分かった。
「俺まで、阿呆ではないかっ」
「でも厭きませんでしょう?」
そう言った顔は。
雨に濡れてどうしようもなく。
色男だったという事にしといてやろう。