和の言葉を題材にして50のお題





涙 雨



元より覚悟の上。
貴方の眼中には俺で無い誰かが住んでいる。
そんなの、召抱えられた時から分かっていた事。
左近は泣きたい時に泣ける子供が今一番羨ましかった。
泣けると言う事は、存外幸せな事なのかもしれない。
「追う方が、好きだとは言ったが…」
手に入らねば辛いのもまた、追う方が勝るような気がする。
貴方を深く知ろうとする度に。
貴方を理解すればするほど。
何処や彼処に現れる俺の知らない、貴方の思い人。
時折物思いに耽る貴方の横顔は、俺を…否。
左近は小さな雨音に気付いて、少し障子を開けて外を見た。
俺を含めた何もかもを寄せ付けない。
その亜麻色の瞳が、琥珀に濡れるのは…
俺の為では無い。
「かなわない…」
貴方の思う誰かに敵わないし、俺の思いも叶わない。
ねぇ、今し方振り出したこの雨。
これは俺の心を汲み取って降り始めたのですか?
それとも。
貴方の切ない思いを哀れんで降り始めたのですか?