和の言葉を題材にして50のお題





大 雪



「寒いのは好かん。」
どうして幼子と言うものは雪が降れば喜び庭を駈けずり回るのか。
全く解せん。
しかもこの大雪に、すっかり止んで晴れ間が覗いているとはいえ。
不可解だ。
だがそれにもまして、信じられないのが…
「左近、お前どうしてこんな寒い日に限って障子を開け放す!」
光の照った白銀は妙に明るく、外は澄んでいて何時もより美しいのは認めよう。
俺は何かと不精だから、つい淀んだ空気を入れ替える事も怠る。
だから、開け放したのもまぁ仕方ない。
しかし目の前の男は、更に俺に着込んで居る着物まで脱げと言う。
少し…頭がおかしいんじゃないか?
「ほら、殿。武士がそんな着膨れしててどうするんですか。みっともない…」
「五月蝿い、痩せ我慢などせずとも此処は俺の城だ」
室内で辛うじて息は白くないが、寒いには変わりないんだ。
俺の城でぐらい好きにさせろ。
「…俺、そんな布の達磨みたいな殿を抱き締めとう御座いません。」
「なっ…!?」
三成は達磨に形容されたのに、余程己の誇りが傷ついたのか。
左近の目の前で一枚二枚と重ね着を脱いだ。
「文句は無いだろう…俺は寒いがなっ」
三成は物凄く不機嫌そうに左近を睨んだ。
睨まれた左近はと言うと…
「これで貴方を抱き締められる」
なんて言って、障子が開け放しているにも関わらず三成を抱き締めたではないか。
「左近、おまっ」
そして左近は、三成が慌てふためくのを楽しむように殺し文句。
「今離れると殿は凍えてしまいませぬか?」
三成は、負けを認めて黙るしかなかった。